「Lidea」起点の施策で防虫剤の売り場に活況
――顧客を知る手段としては、御社が2014年に先駆的にローンチしたオウンドメディア「Lidea」が一定の役割を果たしているのではないかと思いますが、Lideaを通してわかるデータを起点にした施策の例はありますか?
たとえば、衣替えに関する販売店への提案が挙げられます。Lideaでは春と秋の衣替えのシーズンに記事を更新していますが、ユーザー動向から「衣替え」を検索するタイミングを探ったところ、春なら気温が20℃を超える、秋なら20℃を下回ると、皆さん衣替えが気になってくるのだなとわかりました。また、併せて検索されているワードに「虫食い」や「黄ばみ」という単語があったことから、衣替えをしてみたら虫食いや黄ばみが気になった、というストーリーが想像できました。
これを防ぐには、衣類をしまうときにしっかり汚れを落とすことが必要です。今はケースごと入れ替える、衣替えをしないといった人もおり、以前ほどしっかり衣替えをする人が減って、実は防虫剤の売り上げが下がっているという状況があるとうかがっていました。そこで販売店に、防虫剤のコーナーで「“しまい洗い”で虫食いや黄ばみを防ぎましょう」と訴求することを提案したところ、平均して110%の売り上げ増加につながりました。
データを活用すれば、販売店へも貢献できるのだと実感しましたね。この一件を通して、営業部門からはもっと売り場提案が欲しいと声が上がり、梅雨の前の防カビなどをテーマに、季節要因と連動するユーザー行動から仮説を見出すことに取り組んでいます。

生活者の姿を捉えることが大前提
――それは興味深いですね。今のお話をうかがうと、まだまだ購買は掘り起こせるのだと感じます。
そうなんです。やり尽くしたと思っても、生活者を知ろうとするほどデータが得られる今、それに向き合えば見過ごしていた事実がこんなにある。今後もLideaのチームやコンシューマーナレッジセンターと連携して、新たな売り場づくりの施策を探りたいと考えています。
――そのデータのお話も含めて、生活者に体験価値を提供するコミュニケーションを実現するための課題や展望を、最後にうかがえますか?
やはり、生活者の姿をきちんと捉えていくのがすべてのベースになると考えています。単なる属性だけでなく、行動やその背景にあるインサイト、世代やライフスタイルによる価値観まで含めて生活者を理解した上で、ではどの人にどんな価値を届けたいのかを考えていかなければ、何も心に響かない時代なのではないかと思います。
企業視点での機能訴求は、ある意味で簡単です。顧客を起点とし、マス広告以外にもデジタル広告やSNSなどを駆使した細かなコミュニケーションをブランドの課題に応じて考えていくのは、実際のところ手間もかかります。それでも、可能なところは効率化しながら、皆で知恵を絞って最適なコミュニケーションを考え抜く。そこから逃げずにいられるかが、ひとつの大きな課題かもしれません。
一気に大勢の方に認知いただいたり、短期的に売り上げを伸ばしたりするには、やはり今もマス広告を使ってのコミュニケーションが有効だと思います。私たちのような消費財メーカーには、それは今後も必要です。でも同時に、これからは一人ひとりのとなりで、その人向けのメッセージを投げかけながら相思相愛を目指していくことも大事だと感じています。目的に応じて、両方を使い分けていければと思っております。
