睡眠不足から逃れられない現代人、その影響と理由
冒頭で紹介した通りランド研究所の調査では、睡眠不足は国の経済に多大な損失をもたらすと指摘している。その具体的な要因とは、睡眠不足による生産性の低下と体調悪化や死亡率増加による医療費の高騰だ。
誰もが経験したことがあるかもしれないが、睡眠不足になると頭がすっきりせず、集中力を欠く状態になってしまう。知的労働であろうが、肉体労働であろうが、集中力を欠く状態ではミスを連発し、生産性を大きく下げてしまう。ランド研究所の調査では、毎日7〜9時間の睡眠をとっている人に比べて、6時間未満の人は平均で2.4ポイント生産性が下がってしまうことがわかったという。死亡率の増加も深刻だ。睡眠時間6〜7時間の人は、健康的な睡眠時間とされる7〜9時間寝ている人に比べ、死亡率は7%高まるという。さらに睡眠時間6時間未満の人は13%も高くなることが判明したのだ。
各国の睡眠時間6時間未満の人口割合は、米国18%、英国16%、ドイツ9%、日本16%、カナダ6%となっている。米国では5人に1人が深刻な睡眠不足状態にあるようだ。また、睡眠時間6〜7時間の割合は、米国27%、英国19%、ドイツ21%、日本40%、カナダ20%と、軽度の睡眠不足状態の人はかなり多い。
同調査では、睡眠不足の要因にも切り込んでいる。睡眠不足に大きな影響を及ぼす要因は「メンタルヘルス/身体の状態」「通勤/職場環境」「人間関係/社会関係」の3つだ。この調査は英国で2015〜2016年に6万2,000人の成人を対象に実施された。
これらの3つのなかでも睡眠不足に最も大きな影響を与えるのは「メンタルヘルス/身体の状態」であるという。中度から高いレベルのメンタルヘルスリスクを抱える人々はそうでない人に比べ1日あたり平均17.2分睡眠時間が少なくなるというのだ。精神だけでなく身体の状況も睡眠状態に作用する。たとえば、肥満の人はそうではない人に比べ2.5〜7.0分睡眠時間が少なくなる。また、1週間あたりの運動時間が120分未満の人の睡眠時間は2.6分少なくなるようだ。このほか喫煙なども影響すると指摘している。
メンタルヘルスに次いで睡眠不足に影響を与えるのは「通勤/職場環境」だ。
そのなかでも特に通勤の影響は大きいという。片道1時間以上かけて通勤している人は、片道15分未満の人に比べ平均16.5分睡眠時間が少なくなるという。通勤時間と睡眠不足には非常に強い相関関係があると指摘している。このほか職場でストレスを強く感じる人は、ストレス度合いの低い人に比べ平均8分睡眠時間が少なくなることが報告されている。
3つ目の要因「人間関係/社会関係」とは、パートナーや家族との関係が睡眠状態に影響を与えることをいう。たとえば18歳以下の子どもがいる親は、子どもがいない親に比べて4.2分睡眠時間が短くなるという。
