ユーザーの検索体験を意識したコンテンツ設計を
月岡:Faber Company(以下、Faber)の月岡と申します。このセッションでは、富士フイルムの角田さんと一緒に、弊社のコンテンツ&SEOプラットフォーム「MIERUCA(ミエルカ)」を用いて、EC売上増に貢献したコンテンツマーケティングについてお話をいたします。
角田:富士フイルムe戦略推進室の角田です。e戦略推進室は、各事業部を横断する組織として、グループ全体のデジタルマーケティングの統括を行う部署です。本日は、年賀状商戦におけるコンテンツ施策についてご紹介いたします。
月岡:まずは、改めてコンテンツマーケティングについて考えたいと思います。コンテンツマーケティングには色々な手法や種類があるかと思いますが、「バズらせる」ということに注目が集まるように感じます。ですが、私はコンテンツマーケティングの本質は「有益なコンテンツを発信し、顧客と継続的な関係を維持し、最終的な利益へつながる行動に移してもらうよう働きかけていくこと」だと考えています。
今回は「検索」というチャネルを軸としたコンテンツ施策の話になるのですが、ここでも「ユーザーを想うこと」が重要になります。従来の検索領域、つまりSEOの施策は、タイトルタグにターゲットキーワードを入れるなどテクニカルなものが主流でした。しかし、検索エンジンは進化を続けており、今や語句が含まれているか否かではなく、検索キーワードの裏側にある意図や意味を理解して、検索結果を表示するようになっています。
角田:たとえば「バレンタイン お返し」と検索したとき、ユーザーの検索意図を「ホワイトデー」だと認識し、タイトルタグの文言に関係なく、関連するページを表示しているんですよね。
月岡:そうなのです。つまり、“どんなユーザー”が“どのようなシーン”で“何を知りたい”のかという「検索意図」を理解した上で、コンテンツの企画設計を行わないと、ユーザーへコンテンツを届けることができなくなってきているんです。では、このお話を踏まえて、富士フイルムさんのコンテンツ施策について、お話をうかがっていきましょう。
縮小市場で成長する富士フイルムのコンテンツマーケティング
角田:まずは、年賀状市場についてお話します。年賀状は季節商戦ですので、テレビCMなどのマス広告が中心でした。中でも写真年賀状は、結婚や出産などのライフイベントに影響を受けています。短期商戦ならではのマス施策を展開しながらも、ライフステージごとのターゲティングを明確にし、プロモーションを行う必要があると考えていました。
月岡:年賀状市場全体が縮小する中、富士フイルムさんの昨年実績は、オンラインでの年賀状申し込み数が前年比114%、そして自然検索流入が同172%と大きく伸ばされました。それを支えた施策のひとつが、コンテンツマーケティングです。角田さんには、なぜ検索チャネルを強化したのか・インハウス体制構築・コンテンツの育て方、この3つについて詳しくお聞きしていきます。
角田:まず、なぜ検索チャネルを強化したのかについてお答えします。元々良質なコンテンツをもっていましたが、年賀状は大衆化している分、競合も多く、広告集客での費用対効果が伸び悩んでいました。そこで検索チャネルを強化するため、コンテンツを活用していく施策へ注力する必要があったという背景があります。
月岡:ユーザーの検索意図について、少し補足をします。ユーザーの検索クエリは、インフォメーショナルクエリ(情報収集段階)、指名検索などを含むナビゲーションクエリ(案内型)、コンバージョンに近いトランザクショナルクエリ(取引型)と呼ばれる3つに分けることができます。
年賀状で表しますと、トランザクショナルクエリは「年賀状 販売」「年賀状 印刷」のように、年賀状を出したいという意志がある検索。この検索をするユーザーには広告でリーチするのが最適でしょう。しかしボリュームが圧倒的に多いのは、「年賀状 一言」「年賀状 いつまで」などの、インフォメーショナルクエリなんです。
角田:おもしろいと感じたのは「年賀状 いつまで」が、時期によって検索意図が違うこと。年内であれば「いつまでに投函したら元旦に間に合うか?」であり、年明けは「年賀はがきは、いつまで出していいのか」などが考えられます。このような検索意図を踏まえ、コンテンツ施策を実施してきました。
少人数のインハウス体制で、スピーディーなPDCAを実現
月岡:続いて、体制に関する質問です。今回の施策は、マーケ担当の角田さん、そしてコラム担当、ECサイト担当の3名体制で取り組まれました。みなさん兼務とのことですが、なぜ少人数のインハウスでコンテンツを作られたのでしょうか。
角田:年賀状は短期決戦ですので、スピード感が必須であり、インハウス体制が最適でした。また、e戦略推進室の役割である他事業へ横展開も考え、社内にノウハウを蓄積するための選択でもあります。これらの判断が、結果としてコストカットにもつながりました。
月岡:とはいえ、リソースが足りないことに悩まれる方は多いと思います。角田さんなら、これから取り組まれる方がいるとしたら、どのようなアドバイスをされますか。
角田:はじめから大きなプロジェクトして始めるのではなく、「小さいチーム・小さいプロジェクト・小さい成果」を目指すことです。まずは3~5人ほどの小さなチームで、小さなプロジェクトからスピード感をもって施策を回し、小さくてもいいから結果を出す。そのサイクルを回し続け、少しずつ成果も大きくなってくれば、インハウスでリソースを確保するという話が見えてくると思います。
MIERUCAでユーザーの検索意図をビジュアル化
月岡:では、「コンテンツの育て方」についてうかがいます。実は、今回新規で作成したコンテンツは1本のみで、ほとんどは既存コンテンツを改善することで成果を出しました。今まであったコンテンツを改善しているので、「コンテンツを育てる」と表現しています。そもそも既存のコンテンツ群には、どのような課題を持たれていたのでしょうか。
角田:Google Search Consoleなどのデータを参考にしていましたが、最終的にはヒトの感覚に頼って制作をしていました。コンテンツに愛着をもって制作しているものの、本当にやり方が正しいのかという不安感は抱えていましたね。
月岡:その課題に対し、当社のMIERUCAは大きな役割を果たせたと思います。MIERUCAは、検索している人が何を知りたいのか? を考えるヒントを提供するツールです。検索ワードを参考にしてユーザーの検索意図を分析し、キーワード同士のつながりを表現したマッピングの図を表示する機能をもっています。
角田:「年賀状 上司」と検索したとき、MIERUCAでは「挨拶」という検索ニーズがあるとわかります。上司に年賀状を送るときの挨拶は? と考えていることが推測できますよね。ビジュアライズされたマッピングは、企画段階の議論を交わす上で使いやすかったです。
ユーザーニーズの網羅によって、検索順位の安定・検索流入の増加に
月岡:MIERUCAでは、キーワードに関連した重要トピックやテーマもリストアップします。たとえば「年賀状 メール」で検索したとき、ウェブ上でどのようなコンテンツが評価されているかを分析し、重要度を割り出します。重要度は単純に出現回数の多さではなく、自然言語処理の観点から判定しています。重要度の高いテーマを網羅すると、ユーザーが知りたいこと、検索意図に近づける可能性が高まるのです。
角田:そのミエルカのアウトプットを活用し、ユーザーが欲しいコンテンツを既存コンテンツに追加するなどして、改善を行いました。結果、読了率とECサイト誘導の増加につながっています。体制としても、小さいチームだからこそ、改善に関する打合せ後すぐに修正案を準備、次の日には更新して公開と、スピーディーに改善できました。
月岡:現状把握・施策決定・実行・効果検証というPDCAを短いスパンで回されていることがポイントですよね。
角田:また、MIERUCAのカスタマーサクセスチームのフォローにも助けてもらいました。コンテンツ改善だけではなく、SEOという観点でも相談していたのですが、ときには「施策を実施せずに現状維持」とアドバイスいただいたこともありました。わからないことは聞くというスタンスでおりましたが、専門的な立場から意見をいただき、インハウスで施策を行う不安が解消されました。
月岡:MIERUCAはツールですが、サポート体制も含めてソリューションとして提供できるのは強みだと考えています。
そしてコンテンツ改善施策の結果、検索順位が大きく上昇しました。「年賀状 上司」は58位から5位に、「年賀状 結婚」は7位から2位、「年賀状 デザイン」は圏外から6位に順位が上がり、検索流入も増えています。ターゲットキーワードでの評価は、周辺キーワードへの評価にもつながりますので、検索流入の全体的な底上げになっていますね。
角田:今回、様々な「年賀状」掛け合わせのキーワードで施策を行うことで、ユーザーニーズにより網羅的に応えることができ、例年ブレがちだった「年賀状」の単体キーワードの検索順位が上位で安定したことも、大きな成果だったと思います。
制作者の「想い」とMIERUCAの「データ」でコンテンツを育てる
月岡:コンテンツマーケティングの費用対効果に悩む方も多いかと思いますが、富士フイルムさんでは、コンテンツマーケティングの成果をどのように評価されていますか。
角田:広告価値への費用換算が最もわかりやすいですね。検索上位表示を実現したキーワードをリスティング広告でのクリック単価に置き換えて、同等の流入を広告で獲得した場合の広告費に換算するという具合です。また、コンテンツが年賀状注文というコンバージョンへどれくらい貢献しているのかの評価もできないかと、アトリビューション分析の取り組みも進めています。
月岡:検索を起点としたコンテンツマーケティングの全体的な傾向として、情報収集系コンテンツが多くなる傾向があります。そこに即時のコンバージョンを求めるのも難しい。そこからコンバージョンへつながる、ユーザーの検討段階を進めるようなコンテンツが架け橋となって、コンバージョンまでの導線を描けるといいと考えています。
角田:そういったコンテンツについては、今年取り組んでいる施策です。ユーザーの次の行動を分析し、その行動に沿ったコンテンツを制作しています。また、富士フイルムのミッションとして、年賀状市場を支え、文化をつないでいきたいという想いがあります。年賀状のポータルサイトを作るくらいの意気込みで取り組んでいますので、幅広いコンテンツを網羅できたらと考えています。
月岡:では、富士フイルムさんのコンテンツマーケティングのポイントをまとめます。「制作者の想いとユーザーの検索意図を反映したハイブリッドなコンテンツ」、そして「スピーディなPDCA体制」の2つがポイントでしたね。
角田:そして、「育てる」というキーワードにつきます。コンテンツを作るのも、読むのも人間です。まずは制作者の想いをのせたコンテンツ企画を作り、データでユーザーニーズの論理性・正当性を分析して、調整する。これが、コンテンツを育てるポイントです。
月岡:データやキーワードの向こうにいるユーザーを、ありありと思い浮かべるということですね。本日は、ありがとうございました。