経営層の関与と社内プロジェクト
白石:ダイバーシティの推進には、経営陣が積極的に関わっている姿勢を明確に示すことも重要だと言われています。
湯川:ヤフーでは、女性活躍や障がい者活躍などのプロジェクトごとに「スポンサーシップ制度」を導入し、プロジェクトには必ず執行役員が必ずスポンサーとして付いて推進していくことになっています。あくまでも手を挙げて参加したメンバーが主役で、一緒に考えていきましょうというスタンスです。よく社内では「イコールパートナーの関係」と言っています。私は「労使関係」という言葉はあまり好きではありません。それは、会社のほうが偉くて社員を雇ってやっているということですし、その逆は依存関係なので不健全だと思います。
石井:我々も、最近よく「労使関係はおかしな言葉だよね」と言っています。
白石:先日、丸井グループが主催する社員向けのイベント「インクルージョンフェス」に参加したのですが、あのイベントの熱気は、社員の「自分たちで作る」という気持ちから生まれているように感じました。LGBTQの方と意見交換をするブースでは、マルイのアクセサリー売場で店頭スタッフからLGBTQカップルにペアリングの提案があった、とても嬉しかったというエピソードを聞きました。

石井:インクルージョンフェスは、「インクルージョン」を共通テーマに、年に一度、社内の複数プロジェクトの集大成の場として企画されたものです。社員はみなイベントやお祭りが大好きで、専門的なテーマについては、その講師をプロジェクトメンバー自らで探してきたりもします。
これまでの丸井グループはどちらかと言うとトップダウンで、社員は言われたことをやるという会社でした。10年ほど前から、社員が自ら考え手を挙げて行動するようにならないと、組織や個人の活性化もないということを言い続けてきましたが、なかなか進まなかった。プロジェクトを公募制にしたり、幹部社員だけが出席していた中期経営推進会議に、役職を問わず参加できる仕組みにするなど、粘り強く活動を続けた結果、ようやく自主的に手が挙がるようになってきました。
現在は4つの公認プロジェクトがあり、「多様性推進プロジェクト」もその1つです。一般社員を中心としたプロジェクトメンバーがいて、その上にそれぞれの委員会があります。委員会は多くの場合管理職が参加していて、メンバーがやりたいことを具現化する手助けをしています。トップダウンとボトムアップをどうミックスしていくかが、今のリーダーシップのあり方なのかなと思います。
湯川:リーダー層が自分から出て行くことは大事ですね。「みんな来い」ではなく、こちらから出向いていくことで全体の一体感や距離感が縮まっていくと思います。
今後の展望
白石:両社とも取り組みたいことはたくさんあるかと思いますが、最後に今後の展望をお聞かせください。
湯川:ヤフーの人事ミッションは「人財開発企業」になっていくこと。これは、社員が成長することで、企業として市場価値を高めるということだけではなく、きちんと世の中に貢献して、個人・会社の成長の両輪を回していきたいと考えています。
そのために、ダイバーシティは欠かせない要素の1つです。一時的には非効率な面があったとしても、会社としての考え方を変えながら実現していきたいと思います。そして、社員の成長や幸せに寄り添っていきたい。みんな、多くの時間を会社で過ごしているわけなので、その時間が不幸だと人生も不幸になってしまう。会社も社員もハッピーになることが目標です。

石井:我々が今年立ち上げた証券会社は、富裕層を対象にしたものではなく、若い人たちに資産運用を身近なものにすること、それによって将来の不安を解決することを目指しています。社会の課題を解決していける企業がこれから伸びていくと考えると、多様な顧客が我々に求めているものに気づく視点は、我々のダイバーシティの中から生まれてくるのではないかと考えています。
従業員は社会から預かっている資産ですし、店舗も社会からお借りしている土地や建物です。世の中という視点から見た時に丸井グループとして何をやっていかなければならないか、そしてそれを社員1人1人が自立して考えることができる企業体であり続けたいと思っています。
白石:ダイバーシティに取り組む日本企業は増えてきましたが、まだまだ手探りの状態という企業も多いと思います。本日は様々な取り組みを伺うことができました。今後は、移民の受け入れなどが現実的になってくると、また違った課題が出てくるかもしれません。私自身も、このテーマを今後さらに追いかけ、多様な個人と企業の価値が最大化されるための取り組みをしていきたいと思っています。本日はありがとうございました。