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定期誌『MarkeZine』デジタルクリエイティブの作法

デジタルの「ヒーロー」とクライアントの「イメージ」を見定める

Webドラマ制作でわかったヒーローの発信力

――ヒーローというと、インフルエンサーのような存在でしょうか。たとえば、若い層にすごく影響力のあるYouTuberやインスタグラマーのような。

 そうです。ただ、彼らの存在は少し前までの「YouTuber」「インスタグラマー」という存在を大きく越えるものになっていると思います。わかりやすい例として、今年に行ったワイモバイルのキャンペーン事例をお話ししますね。

 今年の2月26日から3月23日までの約1ヵ月間、ワイモバイル公式YouTubeチャンネルで「恋のはじまりは放課後のチャイムから」というWebドラマを展開しました。

 このドラマには2つのポイントがあります。1つは「リアルライフシンクロ型ドラマ」というコンセプトを打ち出したこと。ドラマ本編を流すYouTubeのほか、Instagram、Twitterなど複数のメディアを横断して、卒業まであと1ヵ月という5人の高校生の姿を描きました。ストーリーは動画で、それ以外の登場人物の心情や行動は、登場人物のTwitterやInstagramのアカウントで追いかけていく設計にしました。

 もう1つのポイントは、俳優さん以外にデジタル領域で高校生に人気のクリエイターにも出演してもらったことがあります。女子高生のカリスマクリエイターの「ねお」さん、それに「怪盗ピンキー」さんです。

――なるほど。

 テレビなどにはあまり出ていない方々なので、幅広い世代に知られているわけではないのですが、デジタルにおける彼らのパワーや発信力は、ターゲットによってはとても大きいのです。

 また、デジタルのクリエイターは生活者に近い存在なので、ファンのエンゲージメントがすごく高い。クリエイターがSNSで何かを投稿すると、ものすごい勢いで反応しますし、彼らがたまに返信を返すとすぐにバズる。このドラマの合計再生回数は3,000万回を超え、大成功といえる結果となりましたが、この反応の半分以上は、彼らクリエイターに対するエンゲージメント力でしょう。そのため、デジタルクリエイティブやキャンペーンにおいて、どういうヒーローと組むべきか考えることが、非常に大事だと思います。

メディア特性に応じてコンテンツを出し分ける

――つまり、デジタル領域でのヒーローをうまくアサインしていくことがポイントになっているわけですね。

 その傾向はあると肌感で思います。「デジタルに合わせたキャスティング」はとても重要になっていて、私も様々なアプリをダウンロードして、新たなヒーロー候補を探しています。今の10〜30代の方は、SNSのアカウントを平均4、5ほど持っていて、各SNSを渡り歩いて好みのヒーローを見つけているんですよね。TwitterでおもしろいものがなければInstagramを見て、そうじゃなかったらTikTokを見てというように、隙間時間におもしろいものを探し続け、1つのメディアで完結しないんです。

 今回のドラマも、ドラマの映像自体はYouTubeで配信していますが、学校のできごとはTwitterで、フォトジェニックな写真はInstagramというように、視聴者がメディアを渡り歩く前提で、様々な情報提供を心がけました。

――視聴者を飽きさせない、ということですね。

 それに加えて、Webドラマに関する情報と接触する時間や機会がより多くなるというメリットもあります。キャスティングがはまったこと、メディアごとにコンテンツを出し分けて接触機会や時間を多くし、深く長く付き合うようにしたのがこのキャンペーンです。

幅広い層より、1人に刺さる企画を立てる

――企画においては何が必要なのでしょうか。

 幅広い層にではなく、「1人のターゲットに深く刺さるものをどう作るか」がポイントになっていると思います。万人ではなく1人に刺さるものがあれば、それがデジタルの力で拡散する、そういうシンプルな方向なんですね。

 たとえば、昨年から受けている群馬県高崎市の案件があります。当初は「高崎市の情報を紹介する、食べログのようなサイトを作りたい」という依頼で受けたのですが、同じ土俵で勝負するのであれば、食べログで十分ですよね。

 そこで、高齢のご主人や家族で運営していて、いい意味で昭和感のある古い飲食店、絶やしてしまうには惜しすぎる絶品グルメ=「絶メシ」と名付けて、この絶メシを紹介するサイトを作ったんです。これが大ヒットして、テレビ番組に取り上げられたり書籍にもなったりして、先日「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のグランプリも受賞しました。

――すごくエッジの効いた企画ですね。

 世の中の流行りをマネするだけでは、有象無象のコンテンツにあふれるデジタルでは注目されません。そうではなく、一点に魅力を尖らせ、それをおもしろいと感じる人だけにまずは刺さるコンテンツを作る、私は日ごろからそう考えるようにいます。

 高崎市とは、第2弾として今年7月末から「#インスタグンマ―高崎」という企画を始めました。高崎市内を歩いて、よく見るとじわじわと笑えてくるおもしろ写真をアップしていくサイトです。これに興味を示したネットユーザーが、ハッシュタグ「#インスタグンマー」でネタを投稿してくれるようになり、1ヵ月経たないうちに1,000件ほど集まりました。

――何がそこまでネットユーザーを惹きつけるのでしょうか。

 やはり、キャンペーンを展開する側が「自分が世の中からどう見られているか」を知っておくことが必要だと思います。たとえば高崎市のある群馬県は、ネットでは「グンマー帝国」などと呼ばれ、何もない秘境の地として愛されている空気がありました。そこで東京のようなおしゃれ感を出そうとしても受け入れられないんですよ。だとすると、そこに「ボケ」やいい意味での自虐感を出していくことで、「おもしろい」という反応が生まれるんです。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/10/25 15:30 https://markezine.jp/article/detail/29461

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