広告主が考えるべき、お金の使い方
信頼をベースに一丸となる点は、田中氏が徹底する予算に関するスタンスにも強く表れている。主体は事業側にありつつ「“お財布”は預けている」というのがその特徴。年間の予算を外部プロデューサーにすべて明かし、それをどう使うかを一緒に考えているという。
「それは以前の丸投げとは違うのか」という徳力氏の問いに、田中氏は「アイデアまで投げていたのがまずかった。オリエンシートを自分らで書けないのに結果が出るわけがない。今は、社長のオーダーを僕らチームで解釈し、オリエンシートを作成しているような感覚なので、ブレがない」と答える。加えて競合コンペによる消耗に触れ、「お財布を預けられるのは信頼。命を預けていること、競合にかけないということだから」と解説する。

福田雄一監督ありきで、社長と田中氏の3者で話して考えを共有した上で企画を固めていった。
(c)創通・サンライズ
吉野家では今、店舗とオンラインのデータをマッチングさせ、テレビCMから集客までのデータ分析と活用の仕組みを構築している。これもエージェンシーとともに構築したもので、彼らには「ビジネスプロデュースをしてくれと話している」という。時代とともに、力を借りる範ちゅうが変わってきているのだ。
ただ、こうしたフラットな座組みの場合、契約の形態は大きな課題だ。徳力氏は「総合広告代理店のビジネスモデルが、アイデアを媒体のコミッションで回収する形になっていたから、アイデアはタダだと思っている企業が多い」と指摘。この点について、田中氏、津田氏はともにプロジェクトベースで契約しているという。
藤原氏は「アイデアによってこちらが出せる予算は変わってくる。成果報酬のような形なのかなと思う」と答える。
エージェンシーは愛のある提案を
また、チームで目指す目標やKPIはそれぞれのミッションと業態によって様々だ。藤原氏は「完全に売上」、ECベースの津田氏は売上のほか、イベント参加などによるLTVの変化や顧客の満足度も計測している。店舗中心の吉野家は「入客数」だという。
「最後に、エージェンシー側が意識を変えるためのヒントを」という徳力氏の要請に、藤原氏は「信頼を築く時間は必要だが、間違っていたら『違う』と言ってほしい。生活者をよりよく知っているのはエージェンシー側だと思うから」と答える。
津田氏は、よくメンバーに「楽しいですか?」と問いかけるという。
「人は楽しくないと成長しません。せっかく人生の貴重な時間をいただいて一緒に仕事しているから、問題があるなら僕らもやり方を変えないと、と思っています」(津田氏)
そして田中氏は自身の姿勢として「ビジョンを明確にしてそこまでの道筋をちゃんと提示している。だから、エージェンシーには『愛のある提案をしてください』と必ずお願いし、そのような提案ができるところと手を組んでいる」と話す。
随所で「信頼」という言葉が聞かれたように、上から下へではなくフラットなチームとなって課題に向き合う、あるいは課題の発掘からともに進めようとするなら、互いに腹を割って信頼する姿勢が欠かせないのだろう。先陣を切る3社に続く、さらなる好例の登場が期待される。