音楽が「消費者行動」を変える
高野氏は、音楽には聴いた人の行動さえも変えてしまう力があると言う。たとえば、お店でショッピングをしている際に「蛍の光」の音楽が流れたとする。すると、消費者は「お店がもうすぐ閉まる、早く買い物をしなきゃ」と思い、歩くスピードを自然と速める。「蛍の光」という音楽が、消費者の行動を変えたのだ。こうした音楽の特性は、「店舗の利益を高める」ために使うこともできる。
「店内であえてゆっくりしたテンポの音楽をかけて、来店者の歩く速度を遅くさせているお店などもあります。歩く速度が遅くなると、回遊率が高まり、一説によると、商品をカゴに入れる量が3倍になるとも言われています。また、国歌や校歌などをはじめ、コミュニティにはシンボルとなる音楽があります。このようにコミュニティをまとめあげる力があるのも音楽の特徴です。今後は、スマートスピーカーが普及することで、『音声の時代』になり、Music(音楽)/Sound(音)/Voice(音声)を含めた聴覚を活用したマーケティングが一層登場してくると思います」(高野氏)

「聴覚メディア」時代の到来?
マス・デジタル問わず、企業はこれまで「視覚メディア」を活用した広告プロモーションに注力してきた。その結果、視覚メディアによる情報が溢れかえり、「その中でいかに認知してもらうか」が広告戦略におけるポイントとなっている。しかし、高野氏はこれからは視覚メディアだけではなく、「聴覚メディア」も重要になってくると見解を述べる。
「人間の記憶は短期記憶と長期記憶がありますが、音楽は長期記憶に入るものだと思っています。長期記憶というのは、お箸の持ち方や自転車の乗り方など、一度覚えたら忘れないもの。音楽や音も、この長期記憶に格納されます。たとえば僕は今35歳ですが、カラオケやドライブなどで90年代のJポップがすぐさまスラスラと歌えるんです。これは、音楽が長期記憶に残りやすいからだと思います。また『救心』『伯方の塩』などのテレビCMで繰り返し使われたフレーズは、商品を使ったことがない人でも歌えたりしますよね。映像というよりも、音で記憶に残っている。
情報大爆発のこの時代、多くの情報がスルーされ、記憶にも残らない。そんな中でいかに自分ゴト化してもらい、記憶にとどめてもらうか。聴覚を活用したマーケティングは、消費者に興味喚起を促し、強烈な自分ゴト化がされ、長く覚えてもらうことができる。音楽でブランドを想起させることに成功したら、その企業はすごく強いのではと思います」(高野氏)