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カスタマーエクスペリエンスを巡る(AD)

究極の顧客体験とは「損得を忘れられる」こと クラシコム青木×プレイド倉橋 対談【前編】

 CX――カスタマーエクスペリエンスという言葉が定着し、重要視する企業が増えている。ただ、一元的に測定できる指標も定石もないのが現状だ。CXプラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドとともに、CXについて先進的な知見や事例を探っていく本連載。初回は同社代表の倉橋健太氏と、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの青木耕平氏が「理想とする顧客体験」とそれに近づく道のりについて意見を交わした。

顧客体験に「設計図」は必要ない

倉橋:僕は楽天を経て2011年に起業しましたが、その前後でいろいろな企業の方にお会いしてお話を聞かせてもらっていました。その中で、青木さんはEC事業をされているにもかかわらず、数字の話をまったくせず、とにかくお客様目線で物事を考えられていたことが印象的で。「CX」というテーマについて、一度じっくりお話ししてみたいと思っていました。

青木:顧客体験って、捉えにくい概念ですよね。「目指すべき固定的な顧客の心理がある」という前提で取り組むと、本質をつかまえられない気がします。

株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平氏(写真左)/株式会社プレイド Co-Founder and CEO 倉橋健太氏(写真右)
株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平氏(写真左)
株式会社プレイド Co-Founder and CEO 倉橋健太氏(写真右)

倉橋:青木さんでも、そんなふうに思われているんですね。「北欧、暮らしの道具店」における顧客体験は、とても優れているし独特だと感じます。今では広告事業も始められているので、BtoCもBtoBも展開されているわけですが、まず、青木さんは顧客体験というものをどのように考えられているか、うかがえますか?

青木:少なくとも、しっかりした設計図を元に完成形を目指してつくり上げるというエンジニアリング的なアプローチでは、たどり着かないかもしれないなと思っているんです。日々、お客様のためによかれと思うことを積み重ねていった結果、ある地点にたどり着いて、独自の素敵さや心地よさが生まれる気がする。たとえば僕が料理を提供するとして、人気のレシピを調べてスーパーで材料を調達し、おいしくできたから倉橋さんに振る舞おうというのもいいんですが、「あっ今日倉橋さんが来ることになった!」とわかって冷蔵庫を見てレシピを考える、みたいなことのほうが僕は好きだなと思うんですよね。

“期待とのズレ”も楽しめる体験

倉橋:相手を考えずに作るのが、前者ですね。逆に相手ありきで作るのが後者。

青木:そう。結果的に同じシチューというメニューになったとしても、相手の経験や個性とそのとき冷蔵庫にある食材をすり合わせて、時間帯や天気なんかによっても変わってくるシチューのほうが、楽しいんじゃないかな、と。もしイマイチでも、「なんかヘンなもの出てきたなぁ」という部分を含めて二人で笑っちゃうような。

倉橋:期待とのズレも含めて、体験ということですね。

青木:そうですね。倉橋さんは、どんなふうに考えていますか?

倉橋:僕も青木さんと同じで、期待通りのことが出てくるのが理想のCXかといわれると、違う気がしています。多くの体験って相手とかサービスを介して作られますよね。誰もに均一化された体験ももちろん悪くはないけど、先のシチューのようにお互いを理解し合っている前提があった時には、「おいしいシチュー」という期待とズレたとしても、提案や驚きを含んだ良い体験になったりして。人っておもしろいですよね。これを紐解くと、お互いが見えている状態で、提供する人がどう届けたいかかという思想があり、それを受け手も楽しむというような関与が、良い“顧客体験”のベースになるような感覚があります。

“可視化できる”というネットビジネスの罠

倉橋:ただ、ネット上のビジネスだと特に、ユーザーのことを考えているつもりでも途中から数字のハックみたいになりがちです。見えてしまうがゆえに。

青木:わかります。数字でいろいろなことが可視化できるのはもちろん利点もありますが、数字を拠り所に突き詰められるだけに、なんでも因数分解できるような気になってしまうんですよね。人間を構成する化学物質が全部わかって、それを容器に放り込んでがちゃがちゃやったら人間ができるわけじゃないのに、なぜかそんな前提ができている。

倉橋:顧客体験も、因数分解できる前提で考えている、ということですか?

青木:そう、それは要素aとbとcとで成り立っているから、それぞれ上げれば総和も上がるはずだ! みたいな感じですかね。たとえばECの世界だと、よく「初回来訪から40日以内に初回購入した人は、リピーターになる確率が高い」といった分析がなされます。すると、今40日以内に購入している人が全体の30%いるから、これを60%に上げればリピーターが倍になるはずだと、40日以内に一生懸命クーポンを出すとかのアプローチをする。でも、あくまで自然な状態で30%という数字が出ているわけで、半ば強引に買わせても、リピーターになるとは限りません。むしろ、買わせようという意図が見え見えで、イヤですよね。

理想の顧客体験とは、損得を忘れられること

倉橋:確かに。でもまさに、そういうことを一生懸命やって「成果が上がらない」と行き詰まるケースも多いと思います。

青木:40日以内でこうなんだ、という状態をわかっておくこと自体は、大事だと思うんですけどね。相手の体調をみながら料理する、みたいなことだから。でも「わかった上でいったん忘れる」くらいがいいサービスを作るためには重要なのかも、と思うんです。

倉橋:特にBtoCで自分が客の場合を考えても、「合理的な選択をしよう」とあまり思っていないですからね。青木さんは「北欧、暮らしの道具店」でどのような顧客体験が理想だと考えていますか?

青木:いちばんの理想は、いいとか悪いとか、損か得かを忘れさせるサービスであることだと思っています。それが最高。どういうことかというと……、僕の好きなマンガの『僕の姉ちゃん』(益田ミリ著)の中に、とてもいいシーンがあって。姉と弟のなんでもない日常が描かれている作品なんですが、ある日、姉が弟に「自分の彼女にどういうプレゼントをしているか」と聞くんです。弟が「コートとか」と答えると、姉が「それって冷蔵庫買ってるのと一緒だよ、得したから喜んでるんだよ」という。じゃあ、姉がこれまでいちばん嬉しかったプレゼントは何かというと、好きな男の子からもらった第二ボタンだというんです。そのときの捨て台詞がよくて、「女は好きな男から得しようなんて思わない」って。

倉橋:おお、なかなか本質的ですね。

青木:そうなんです。これね、お店とお客様との関係でもそうで、本当にお客様から愛されるということが実現したら、お客様は「お店から得してやろう」とは考えないのではないか、と思うんです。

相手にそろばんを置いてほしかったら、自分たちがまずは置く

倉橋:なるほど。こちら側はビジネスだし、お客様も大事なお金を投じているわけだけど、決して損得関係だけでつながっているのではないと。

青木:そう。自分が客の立場だと、好きなお店と買い物を通して付き合うとき、損得をいったん脇に置けている状態の自分が僕は好きなんですね。逆に「得してやろう、安く買ってやろう」と思ってセールを待っている自分は、好きじゃない。だから、お客様自身が「自分が好きな自分」でいられるように、店側がお手伝いできたら、それが究極の顧客体験なんじゃないかなと思う。損得を忘れる、合理的な判断を忘れられるような。

倉橋:第二ボタンも、好きじゃない人のなんか要らないってことですよね。

青木:要らない、要らない(笑)。好きだから、もう天にも上る気持ちになるわけで。そういう体験はどうやったら提供できるのか、ずっと考えています。

倉橋:難しいことだと思いますが、その実現のためにされていることは何かありますか?

青木:模索中ですが、ひとつ、相手にそろばんを置いてほしかったら自分たちがまずは置く、というのはあるのかなと思っています。当然、僕らは企業体としてビジネスをしているわけなので、総合的な計算は必要だし、しています。でも、すべての瞬間でそろばんをはじいておきながら、その一方でお客様には「損得を忘れてください!」と言うのには無理がありますよね。だから部分的に、自分がわざと損得を忘れるシーンを作る。ここは損得考えないでやっちゃえとか、やめちゃえ、とか。

部分最適の積み上げではなくホリスティックに考える

倉橋:確かに、提供側のそういう姿勢でお客様が前のめりになってくれて、得しようという気持ちから解放されることはありそうです。

青木:ですよね。その試みというか、策のひとつが、僕らが製作しているオリジナル短編ドラマです。10月に第二話の配信を開始したところですが、4月に企画自体を始めたときには「ドラマコマースの時代だ、ドラマを通してモノを売ろうとしているのだ」みたいに取り上げられたりもしたんです。でも、考えてみてください、僕らが扱っている雑貨の価格帯で映像作品の製作がペイするわけない(笑)。これ単体で収支を、と思ったらとてもやっていられません。

倉橋:これがひとつの、損得を忘れる行動だと。

青木:そのつもりでやっています。単体ではなく全体的に、ホリスティックに自分たちの事業を捉えれば、まあ問題ない投資だろうと判断しました。損得を忘れてお客様を喜ばせたい、喜ばせようということを、意識的に行うことがとても重要だし、それを行うには、僕らがお客様を好きであることが必要なんですよね。客を選ぶといったら語弊があるかもしれませんが、やっぱり、自然に愛せる相手だから僕らも「どうやったら喜んでくれるかな」と考えられるわけで。

倉橋:損得を忘れる瞬間を作るには、お客様を好きになり、好きになってもらえることがベースになっているんですね。

(後編に続く)

 後編では、クラシコムのスタッフがどうやって顧客を理解しているのか、また「KARTE」の背景にある思いや、テクノロジーのよりよい活用などについて語っていただきました。お見逃しなく!

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/11/27 10:26 https://markezine.jp/article/detail/29675