データサイエンティストは料理人と一緒

押久保:具体的にデータサイエンティストに求められるようになったスキルというのがどういったものかを教えてもらえますか。
河本:僕はデータサイエンティストをよく料理人にたとえて話をしています。そのイメージでいくと、今の時代はこれまでになかった食材がビッグデータによりどんどん出てきていて、これまでできなかった調理を実現する、スーパー調理器具が出てきている状況です。でもそのスーパー調理器具が使える人が主役ということではありません。
一流料亭の料理人なんかは、お客さんのその日の顔色を見て出す料理を決めるというのを耳にしますが、それの何がすごいって、その場のすべてをコーディネートできる点。“分析コーディネーター”って言葉を最近聞きますが、これは分析の観点とビジネス観点を行き来し、統合的に何をしたら良いかを構想して示す人を指すのですが、まさにそういう人が今後どんどん必要とされる時代が来ると思っています。
大木:同義だと思いますが、我々だとビジネス全体への理解に加え、ファシリテーション能力が求められますね。特に先述したコンサルティングチームがこの点を求められているのですが、言い方を変えれば顧客体験を実現させるコーディネーターですよね。
先ほどの料理のたとえおもしろいですよね。そうすると、もちろんお客さんはそこにいらっしゃるので、そこにどう盛り付けて、雰囲気を作って、三ツ星をいただくかということまで含めて料理人は考えなきゃいけないかなと。
経験値+コミュニケーションで、その場をコーディネート

河本:料理人には大きく2つの能力が必要です。1つ目は、この食材、この調理方法を使ったらどんなものが作れるのかを想像できる経験値。2つ目は、目の前に来たお客さんとコミュニケーションして、その人がどんな気分で、何を出したら喜んでくれるか。そして、作ったものに対して言葉で補足して、それによってより美味しくさせる能力です。
この2つの能力とデータ分析って実はまったく一緒。データと分析手法からどんなことが得られるのか、このクライアントはどんな課題に困っていて、何を解決すれば喜ぶのか、その上で分析結果に一言添えて渡すわけですから。
こうした能力を育てるためには、自分の手でデータを触って分析し、役に立つところまでを成功体験として経験することが大切です。その経験を何回かすると、不思議なことに、言葉に言えない肌感覚としてデータのポテンシャルや引き出しというのが頭の中で形成されていくようになります。
大木:ちょっと似た話になるかなと思ったのが、我々が分析のオファーをいただいた際も、いきなりデータだけに向き合わないよう極力心がけています。相手先には実際に現場があるので、そうした売り場などに最初にインタビューしたり、あるいはなるべく現場を歩き回って感覚を肌で抱く。そうした感覚を知らずにデータだけでアウトプットしようとしてはいけないと思っています。
河本:データ分析の共通ゴールは、人の行動・心を変えること。そうなると、人を知るのは重要なこと。だから一見さんの心を開いて、また来てもらえるようにコミュニケーションする料理人のたとえって、すごく良いと思っているんです。
大木:もはやデータサイエンティストというよりは、「データシェフ」が今日のキーワードなのかもしれませんね。