メディアの役割の一つはコミュニティづくり
第一部、第二部で提示された課題をもとに、第三部のメディアの未来についてのオープンラウンドテーブルが始まった。モデレータはアジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO/ブロガーの徳力基彦氏が務めた。

徳力(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役CMO/ブロガー ):壮大なテーマなので、今日の状況においてメディア企業はどうしていくべきか、という議論に絞って、まずはメディアのミッションについて議論していきましょう。
先ほどの北海道テレビのように、脈々と受け継がれている命題がきちんと現場にも正しく解釈されて、活動につながっているのはベストケースです。その一方で、誤解している企業も多いです。たとえば「我々は新聞紙の会社である」「我々はテレビの電波の会社である」「我々はマスメディアである」とかね。北海道テレビでは、今の時代にミッションを社員の思考回路にまで落とし込むために、何かをしたのでしょうか?
樋泉(北海道テレビ放送 取締役相談役):当時の社長をはじめ、デジタル時代における地域メディアの在り様を徹底的に議論しましたね。どんな役割を果たせるのか、またビジネスの方向性についても。
また2011年に自分が社長になってからは「広場作り」、すなわちコミュニティを押し出しました。先ほどの話に戻りますが、安全で安心できる、ある種の共感できる価値観を共有する場所を、生活者は求めているんです。これは地域に住む人だけではありません。
徳力:逆にネットメディアの場合は、ある意味新興メディアを立ち上げる際に、ビジョンをどうしたらうまくいくのでしょうか?
藤村(スマートニュース フェロー ):2000年に100%ネットベースのメディアを立ち上げた時は、コミュニティを意図的に組織していくことを考えていました。ターゲットはエンジニアだったのですが、エンジニアという全体をざるですくうのではなくて、「Javaにこだわっている」「ネットワークにこだわっている」、といったエンジニアの方たちをターゲットできれば、必ずコミュニティができると思っていました。インターネットのメディアビジネスとしては、大成功はしないかもしれないけど、ターゲティングしたメディアを運営していくことが成功の方程式の一つだと今でも思っています。
で、自分でも失敗したと思っているのは、はからずしも広告ビジネスに寄っていってしまったことです。もともとはコミュニティを軸に、転職や教育で人を支援するビジネスを軸にしたかったのですが、広告があまりにも収益性が高いがゆえに、広告ビジネスが中心のエンジンになってしまったんです。
広告が儲かると広告の人を採用する、広告に長けた人がくる、広告からでてくるデマンドにコンテンツも応えていく、といったループに。違うビジネスモデルで成り立たせたかったのに、広告ビジネスの高い収益性に引っ張られてしまったことは、今でも自分の中で腑に落ちていません。
徳力:コミュニティは地域だけでなく、趣味や興味関心でもつくれます。インフォバーンの今田さんがやっているビジネスはその路線だと思うのですが、どうやってメディアの存在意義を模索しているのか?
今田(インフォバーン 代表取締役CEO・ファウンダー ):会社全体としてもミッションは定義していますが、各媒体によって色がぜんぜん違うし、目的もミッションも異なるのため、各メディアでそれぞれがつくっています。そのミッションにコンテンツが合っているか、コミュニティをつくれているかを常に見直しています。
なので、各メディアによって、目標としている数も異なります。たとえば「何千人以上読んでもらったらダメ」と言っているメディアもあります。つまり、ターゲットとしている人たちしか読まない深いコンテンツじゃないと、作ってはいけないということ。結果として数万人に読んでもらうのはいいんですけど。
徳力:ネットメディアって、どうしてもPVを指標にすると、みんながAppleの記事を書き出しますよね(笑)。それを逆にこの市場はこれだけの規模しかないから、そんなに多くは読まれないはずだと、上を決めちゃうんですね。
今田:上限をきめることで、PV獲得を目的としたくだらない記事をつくらないでよくなります。PVは多くなくいいので、そのかわりじっくり読まれる記事をつくろうと。それに合わせて、指標も全部変えています。あと、メディアごとにグルーブ感をどうつくるかに挑んでいます。コミュニティと似ているかもしれませんが、熱狂を作り出さなければ、小さなメディアである意味はないと思っています。