有象無象の悪質サイトが良質メディアの価値を下げる
この潮流については最後に改めて触れますが、ここからは次の4点を順に解説していきます。
- 現状と課題
 - 効果を適切に測るためのKPI
 - 広告主がアドベリを進めるステップ
 - 今後アドベリが進んだ未来
 
始めに「現状と課題」ですが、各プレーヤーの立場によって視点は違うものの、端的に言うと大半は「問題の大きさは認識しているが、手をこまねいている」という状態にあります。広告主としては、当然ブランド毀損につながる出稿は避けたい。代理店もDSPもSSPも、メディアも同感でありながら、まだ明確な対策の道筋を立てられないプレーヤーが多い状況です。
中でも最も苦しい立場に置かれているのは、メディアだと思います。コストや手間をかけて良質なコンテンツを生み出し、広告の質を担保しても、有象無象の悪質サイトや不正インプレッションの影響で、広告単価が下がっています。その額は、対策が進む海外の3分の1ほどに留まるのですが、日本の広告予算自体は米・中に次いで3位です。それだけ、クオリティの低いコンテンツや不正インプレッションに広告費が流れているということです。
IASのクライアントにはメディアも多く、ブランドセーフティを担保した取引で単価の引き上げを図っていますが、メディア全体からするとまだ主流にはなっていません。ただ、これだけユーザーのデジタルシフトが進み、仮に新聞紙面への広告出稿もデジタルへどんどん流れ、いずれ逆転した場合、デジタル広告の単価が上がらなければこれまでの売上構造が崩壊します。その危機感が、新聞社をはじめとしたメディアに広がっています。
広告の売買において、「売る」メディアの逆サイドとなる「買う」側の端にいるのが広告主です。その広告主は今まさに「各種問題は避けたいがコストをかけたくない」というジレンマに向き合っています。実際、IASも国内広告主企業の導入が増えているとはいえ、「“対策”のためには入れざるを得ないが、なぜ“買う”側の当社が追加の対策予算を割かないといけないのか。代理店やメディアが負担すべきでは?」という疑問の声も聞いています。一方、メディア側にも「コストをかけて質を高めているのに単価が上がらない」という思いがありますし、中間事業者もそれぞれ思惑があるので、なかなか解決策が見えてこない状況です。
アドベリの指標はKPIになる? KPIの正しい捉え方と活用
続いて、「効果を適切に測るためのKPI」について解説します。いずれにしても、国内でも各プレーヤーに危機感が高まっているのは事実です。それを踏まえて海外を見ると、計測ツールの普及が進み、かなり積極的な対策、そしてプラス方向への活用が進んでいます。KPIに細かい指標を設定し、PDCAを回して広告費の最適化へつなげています。
メディアの質を測るのに、既存の指標以外にユーザーごとの閲覧時間や、その後の行動からユーザーの質を検出するといった手法も使われ始めています。たとえば初回の広告接触で購入したユーザーと、5〜8回目で購入に至ったユーザーとでは、購入価格やLTVで見るとどちらが優良顧客なのか、などを細かく追っています。そうしたユーザー行動をつぶさに見ていくと、圧倒的な数のユーザーにリーチできるネットワークと、ユーザーの絶対数では劣るものの、デイリーアクティブユーザーやリピーターが多く記事閲覧時間も長いコンテンツメディアとでは、どちらに出稿するべきかを自社の課題に参照して判断していくことができます。単純なリーチ効率(単価)重視なら前者になりますし、本質的な広告効果(売上)向上なら後者になりますね。
国内ではまだ、CPCやCPAが代表的で、ユーザーごとの購買金額やLTV、ブランディング効果を見ている広告主は少ないと思います。IASのクライアントに限るとECサイトの割合が大きくないこともあって、CPC以外の主な指標は資料請求やトライアル申し込みなどのCPA、リーチ効率になっています。ただ、インプレッションやクリックはもちろん、課金や購買が発生しないコンバージョンは、ボットでも偽装できますし、たとえばポイント系サイトなどの場合、有人でも本当にマーケティング効果があるかというと疑問もあります。
そもそも安いCPC、CPAという方向でバイイングしていくと量が求められ、結果的に質の低いメディアや不正インプレッションが含まれ、さらに安さが追求され……という悪循環が起きてしまいます。図表1は米IASのチームが作成した“悪いサイクル”の例ですが、残念ながらこれが日本にあてはまってしまっています。
 デジタルの常識を外して「広告」のKPIを考える
ここから脱却するには、まず自社のビジネス目的を踏まえて、KPIから設定し直す必要があります。我々ベンダーが提供するビューアビリティやブランド毀損などのアドベリに関するデータは、あくまでサポートデータです。その増減は目安にはなると思いますが、直接広告出稿のKPIにするものではないのでは、と考えています。
ひとつ提案させていただきたいのは、デジタル広告とはいえ「広告」なので、広告として本来見るべき指標は何かという観点が必要ではないか、ということです。つまり、認知や態度変容や売上にどう貢献したのか、という指標です。
態度変容や売上まで測り、デジタル広告キャンペーンと紐づけた分析ができる企業は限られるでしょうし、かつ態度変容の調査はかなり高額になるため、毎回のキャンペーンで行うにはコスト効率が合わないとは思います。ただ、この結果はキャンペーンを重ねても大きくぶれるものではないので、「8回の接触がよい」「50秒の視聴が最適」などの知見を一度得ておくと、その後は我々のようなベンダーが提出できるビューアビリティなどのデータを使って、キャンペーン運用のロードマップを適切に描いていくことができます。同時に、ブランド毀損と不正インプレッションは極力避けるようにしていけば、出稿を健全化しながら効果を高めていけると思います。
IASでも、より導入企業に貢献する指標の開発を進めており、先日新たに「タイムインビュー(蓄積閲覧時間)」という指標を発表しました(図表2)。
 接触回数とも似ていますが、累計や平均だけでなく、ユーザーごとにどのくらいの時間広告が見られているかを測定するものです。こうした指標を組み合わせて、メディアの質とユーザー行動を立体的に捉えることができます。
