実行フェーズ
実行フェーズでは、アセスメントフェーズで構築したコミュニケーション戦略を展開していく。どこで、誰に、何を伝えればパーセプションが変わり、行動に移るのか、というポイントをきちんと押さえ、効果的かつ効率的なメッセージとタッチポイントの掛け合わせを、段階に応じてメディアフリーで設計し実行することが必要である。このフェーズでは、様々なパートナーとの連携の中で、限られた予算を最適化、そして最大化させるクリエイティブ効果も加味されていく。論理的訴求(システム2)の中で、直感的訴求(システム1)をいかに組み込んで効果的に使うかもポイントとなる。
モニタリングフェーズ
モニタリングフェーズでは、戦略に応じたコミュニケーション活動が消費者の生活欲求と購買欲求をどのように創出できたか、それらを定期的・継続的にトラッキングしていく。多くのマーケティング組織が多岐にわたる指標やデータをトラッキングしているが、実際にはビジネスパフォーマンスやアクションにつながっていないという声をよく聴く。BPMでは、カンターが膨大なデータの中からその重要性を検証した指標※1を採用しており、それらは、大きく3種類のダッシュボード機能(ファネル、アラート、ブランドエクイティ)によって提供される。
- パーセプションチェンジが、デザインしたとおりに起こっているかを確認するパーセプションファネルダッシュボード
- 短期のキャンペーン効果と連動しやすい指標を追いかけるアラートダッシュボード
- より長期的なブランドの成長を量的視点と質的視点から測定するエクイティダッシュボード
今回はわかりやすいものとして「パーセプションファネルダッシュボード」の内容を具体的に紹介したい(図表3)。
一般的にファネルと言うと、古くはAIDMA、新しくはAISASなどの消費者行動理論に沿ったものがイメージされやすいが、BPMでのファネルはパーセプションの変化を中心にトラッキングしていくため、いわゆるAttentionとなる広告による認知以前の消費者の生活における課題(生活欲求)の醸成度合いから把握していく。これはIMCのコミュニケーション活動での入口となり、その課題を解決していきたいかどうかによってパーセプションの変化や形成に影響する。
次に、課題を認識した消費者(課題認識者)と認識しなかった消費者(非課題認識者)に区分して、「カテゴリーおよびブランド認知」→「ブランドおよび商品理解」→「購入意向」→「トライアル」→「リピート」のブランド選択のファネル構成の中で、戦略どおりに課題認識をしているかを見ていく。気づきを得た課題認識者が、非課題認識者よりファネルの遷移率が進んでファネル全体が太ってくることの確認も、必須要素となる。
加えて、問題認識者のファネルにおける各項目の遷移率を競合と比較することで、購買におけるボトルネックの発見・把握につながる。そのギャップを埋め、取り除くようコミュニケーション活動を修正していくことでファネル構造が改善されていく。
これら全体を通して言えることは、従来のブランドや商品に関する認知・理解・購入意向だけでなく、生活欲求としての課題認識がどこまで醸成されたか、そしてその課題の解決欲求が高まったか、というポイントを把握することで、ブランドや商品のUSP理解とその後の購買の流れ、心理面でのパーセプションに変化を与えられたかを把握することができ、市場創造から購入までの全体像が明らかになるということだ。
さらに、ファネル以外の要素を加味していくことで、当初描いていた仮説に加え、新たなインサイトの発見や態度変容に影響力の高いタッチポイントが見出せるようになる。すると、コミュニケーション展開のバリエーションを効果的に増加させるなど、単なる施策改善だけでなく、更なる拡大検討の余地を確認できる。これらの結果をターゲット顧客に対して週次でトラッキングし、ブランドや商品のマーケティングに携わる全員が同じダッシュボードを見て検証ポイントを探り、今起きている市場環境の出来事を肌身で感じながらリアルタイムに探究していくことが、優れたマーケティング活動につながっていく。
※1 カンターのブランドエクイティ評価(MDF)モデルは、MASB(マーケティングアカウンタビリティ規格委員会)によるMMAP審査プロセスを経て、「MDF指標が企業の財務実績につながる」という認定を取得。その他、ブランドトラッキング、広告評価、購買パネルデータなどを使って指標を検証している。
スモールデータ×ビッグデータ
今では、消費者行動データがビッグデータとして、安く大量に手に入るようになった。一方で、それらのデータが等しく重要だというわけではなく、ただ可視化されただけの取るに足らないものが多く含まれている。より素早く意思決定を下すためにはこれらのデータに意味を見出し、リアルタイムに活用していくことが求められるが、そのためには、サーベイによるスモールデータと掛け合わせて意味を見出すことが必要となってくる。BPMのダッシュボードでは、Googleなどの検索ボリュームやTwitterでの言及量、そしてセールスデータなど、様々なデータを取り込むことができ、週単位のサーベイデータはこれを複眼的に関連づけて解釈することを可能にする。たとえば、カンターの最も進んだ取り組みの1つでは、ソーシャルメディアのデータから特定のパーセプション指標が数週間後にどうなるかを高い精度で予測することに成功している。
情報流通量が加速度的に増加し、消費者の購買行動もめまぐるしく変化する現代の環境下において、情報を確実に届け、パーセプション形成による態度変容を促すことは並大抵のことではない。ただし、その方法が存在するならば、それを的確に計測していく方法も存在する。今回のケースはそれを示す一つで、マーケティングは継続的に進化していく。モノや情報が増加しても人の本質は変わらない。顧客のパーセプションを捉え続け、理想のパーセプションを描いていくことの重要性は、この先、さらに増していくだろう。
