顧客理解に必要なデータの定義とは
続いて、データドリブンマーケティング実現に向けたユー・エス・ジェイの取り組みが紹介された。まずはデータの定義だ。「データ量は多ければいいのか」と疑問を持っていた柿丸氏は「顧客理解に必要なデータとは何か」を考え始めた。そこでポイントとなったのが、テーマパークジャーニーの理解だ。

来場前・来場中・来場後と顧客行動を分けたとき、中でも把握できていなかったのが来場中のパーク内行動。これが欠落していると、柿丸氏が目指すリアル行動CRMは難しくなる。しかし、行動データを蓄積している前例はなく、道なき道を進む必要があった。
そこで柿丸氏は検討の末、パーク内行動データを取得するために地磁気(地球が持つ固有の磁場)を活用することにした。「伊能忠敬プロジェクト」と呼ばれたこの取り組みでは、1年間深夜のパークをパートナー企業と練り歩き、パーク内行動データを取得するためのシステムを開発。「データがないなら、必要なデータを作ればいい。顧客を知る覚悟が必要」と柿丸氏は語った。
さらに同氏は、多方面からデータ活用は考えていくべきと提案。というのも、データドリブンマーケティングというと、パーソナライズ化したコミュニケーションを広告・宣伝で行う話に終始しがちだ。そうではいけないと考えた柿丸氏は、パーク内のアトラクションやサービス開発にも活用できる方法を模索し、ユー・エス・ジェイが提供しているすべての顧客体験の向上に努めた。
「顧客のテーマパークジャーニーを理解するためだけのデータ収集・分析ではありません。ビジネスサイドとゲストサイドの双方がWin-Winであるロジックを立て、理解することが大切です」

さらに柿丸氏によれば、データドリブンマーケティングを推進する際、仕組み化することが非常に重要だという。提供したいサービス価値を考え、その価値をどのようにメッセージングするか、誰もが考えることだろう。そのためにデータを活用するわけだが、「プロセスの仕組み化が抜け落ちている企業は多い」と柿丸氏は解説する。
「データのコレクション・加工・分析を毎日人力で対応するのは現実的ではありません。またそのフローも、人が変わってできなくなっては意味がない。MAで自動化を検討するなど、初めから仕組み化する視点で取り組んだことは、今でも良かったと感じています」
行動データがパーソナルなやりとりを実現
以上のような経緯を経て、データドリブンマーケティングのプロジェクトが進み始めたユー・エス・ジェイ。続いて、実際にデータを使ったCX変革の事例が紹介された。
2017年にリリースされた、デジタルコンシェルジュサービスは、当日のパーク行動に基づき、パーソナルコミュニケーションを行うもの。リアルタイムIn-parkレコメンデーションと呼び、協調フィルタリングと細かなルールベースで、来場ゲスト1人ひとりの行動に合った情報をアプリから提供している。

たとえば、朝の時間帯に入り口付近にいるゲストに対し、カチューシャやアパレルのグッズを提案。それらのグッズを身につけてパークを楽しんでほしいという企業の想いと、グループでお揃いにしたいというゲストの想いをマッチングすることで、双方にメリットを生んだ。
このような事例を作れた柿丸氏は、「完璧とは言えませんが、入社当時やりたいと思っていたオンラインデータとリアル行動データを駆使したマーケティングが、現実的にできるようになった」と自信を見せた。