柔軟な思考でメディアを役割分担
DMに限らず、デジタル時代になったからこそ、紙メディアには新たな活用の余地が出てきました。たとえば、カタログ通販にも活用の余地はまだあります。たとえば、通販事業を行うディノス・セシールでは、ECでの検討行動から、DMを活用してCVRを向上させる試みが行われています。
具体的には、ECの「カゴ落ち」やカート離脱者に対して、DMを最短24時間で発送することで購買喚起を行うというものです。同社のCECO(Chief e-Commerce Officer)を務める石川森生氏によれば、これによって、メルマガだけ送っている顧客と比べて購入率が2割ほど高まっているそうです。
企業発信のコミュニケーションでは、電子メールなどの場合、削除されたり、既読スルーされたりしてしまうことが往々にしてあります。これに対してディノス・セシールでは、紙を用いることで、顧客の目に触れる機会を作り出しています。まさに、DMの保有効果を活かした好事例と言えるでしょう。
また、最近はシニア世代も徐々にスマートフォンを使いこなすようになってきています。しかし、彼らにWeb上で複雑な操作を求めることには限界があります。そのような顧客には、カタログ通販やDM、チラシなどにQRコードを印字して、アウトバウンドコールで上手くデジタルの世界に引き込むと言った柔軟な思考と綿密な「顧客時間」、カスタマージャーニーの設計をする必要があります。
たとえば、一つの施策における「つなぎ」の役割をデジタルにして、「刈り取り」をFAXにしてもいいわけです。カタログかネットかというように、一つのメディアで完結させようと考えるのは得策ではありません。
「古くて新しい」紙メディアの可能性
DMは、チャネルシフトの戦い方の一つでもあります。今までは、DMを受け取ってどう行動したかを把握することは困難でしたが、デジタルでの検証手段を確保しておけば、オフラインからオンラインへの流れも把握できるようになりますよね。統合マーケティングにおける予算は、デジタルやテレビCMなどへの集中投下だけではなく、様々な顧客タッチポイントに振り分けることが重要になります。
ですから、マーケターの皆様には「顧客時間」を意識してデジタルとアナログの統合を進めてほしいと思います。アナログの領域にばかり目を向けているマーケターはもっとデジタルを理解することをおすすめしますし、逆にデジタルばかりやっている人たちはDMのようなアナログを使うことを試してほしいと思います。

良品計画時代、私はチラシによるコミュニケーションに対して懐疑的でした。1回あたり数千万円の予算を要するのにもかかわらず、効果が持続する期間はわずか数日間で、効果測定も難しい。「『金土日のコミュニケーション』にそんなに予算を投下して良いのか、効果測定もできないのに」と思っていたのです。
誰に送っているかわからないチラシに対して、盲目的にお金を使うことは、今となっては片手落ちの施策と言えるでしょう。DMを送れるということは、顧客DBを持っているということ。送付後に、電話やメールをしてみることだって可能です。間を埋めるメディアとして、また、顧客の反応を確かめる施策として、DMは古くて新しい選択肢となるでしょう。
今回は、マーケティングもブランディングもできるDMのおもしろさを紹介しました。「それは販促がやることだから」と他人事にするのではなく、ぜひこの活用の可能性に気づいてほしいと思います。消費者の心をつかみ直すきっかけになるかもしれません。紙に向き合い、文字を読むことに費やす時間の流れは緩やかなものです。時間の流れが早い現代において、記憶に残るコミュニケーションができるDMにも一度目を向けてみませんか。