顧客とテナントのデータを把握し、小売りビジネスの効率化を目指す
原嶋:2017年11月にオープンしたPARCO_ya上野には、ほぼすべてのテナントに設置したカメラ画像で入店客数と年代・性別をAIで推測し統計的にデータ化するサービスを導入されているとのことですが、これはどういった狙いからなのでしょうか?
林:より良いお買い物体験を実現するためには、アプリを使われていないお客様も含めたデータが必要と判断し、サービスを導入しました。また、池袋PARCOの一部フロアには、スマートスピーカーによるご案内サービスを導入しています。現在は、ショップや施設の場所のご案内に留めていますが、今後実現したいのは「花柄の白いワンピースが欲しい」に対し、「〇階の○○にこのようなワンピースがあります」と画像付きでの案内です。
そのためには、パルコ側のデータベースと連携する、テナント側の在庫をはじめとした各データの整備が必要です。ショッピングセンターは、お客様とテナントのデータを把握した上で、ビジネスをしなくてはならない時代になっていますね。
原嶋:VR/AR領域の取り組みは、いかがでしょうか。
林:VR/ARの普及を見据えたデータ収集も踏まえ、実験的な取り組みの面が強いです。たとえば、シンプルなレイアウトの店舗にARグラスをかけて入ると、異なるレイアウトや時間別の変化が楽しめる、といった活用イメージを考えています。
テナントは、店舗内装飾に大きく投資をされています。しかし、テクノロジーの導入で、たとえばそのコストの一部をスタッフの教育や福利厚生、商品へ転換できるようになれば、ブランド体験はもっと良くなると思うのです。
そのように働きかけたいですし、スピーディーに環境を整えたい。これらも、私たちが新しいテクノロジーに取り組んでいる、ひとつの意義です。

テクノロジーで、顧客が望むこと・省きたいことを解決していく
原嶋:ここまで、デジタル戦略の振り返りと展望をうかがいました。一方、買い物体験には、リアルなコミュニケーションも欠かせません。テクノロジーとリアルは、どのようにバランスを取られていきますか。
林:お客様の細かなニーズを引き出し、それをマッチする、時にはお客様の期待を超える提案などマニュアル通りではない接客は、テナントスタッフのスキルに応じた属人的な対応が不可欠です。もちろん、マニュアル通りの接客を好むお客様もいるでしょうし、行動パターンをデータ化することで、ある程度はお客様ごとに最適化された接客が可能になるのではと思います。
しかし、すべてをテクノロジーが把握できるほど、人間は単純ではありませんし、本来は言葉やコミュニケーションによる接客のほうが、良い関係を築けるのです。
原嶋:リアルの良さを最大化するために、テクノロジーで補っていくということですね。
林:ショッピングセンターのお客様は、非計画購買率の高さが特徴。来店し、自分の目で見て、接客体験も含めて意志決定する方々です。そこで、私たちが目指すべきは、お客様が望む体験/省きたい体験をしっかりと理解すること。そして、そのインサイトに必要、もしくは解決するサービスを考え、最適なテクノロジーを導入することです。
原嶋:最後に、林さんが考える、お客様の望む体験/省きたい体験を教えてください。
林:私が考える省きたい体験は、「来店したのに探しきれなかった」「思っていたのと違った」などの、がっかり感や疲労感。反対に、「何となく欲しかったものを見つけ、かつ予算も想定内で、楽しく買えた」が望む体験ですね。「宝探し」的な体験も、提供していく必要があると考えます。
この体験を価値にするのは、お客様を理解した笑顔の接客。買い物プロセスの中で最も重要な要素です。接客に集中できる環境を様々な面から提供し、整え、テナントスタッフの接客力の進化を助けること。そして、さらにお客様のインサイトをデータで把握し、良い接客に結びつけること。これらをテクノロジーで実現するのが、パルコの役目だと考えています。