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MarkeZine Day 2025 Autumn

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露出のための戦術ではない 個の時代に求められる社会的な関心事とつなげる戦略PR

社会の空気を捉えた「#この髪どうしてダメですか」

――マーケティング領域には、マーケティングとPRが社内で分断されているといった理由でPRに明るくない人もいます。本田さんが考える「ザ・戦略PR」の成功例をうかがえますか。

 先ほどお話しした、「企業やブランドや商品と世の中との関係づくり」が実践されているのが戦略PRの好例です。言い換えると、企業やブランドが言いたいことと、社会的な関心事をつなげることですね。

 昔からよく紹介するのは、ブルーカレントで手掛けたオムツのPRです。10時間以上の吸水力のあるオムツと、購入者であるママ層の「とにかくぐっすり寝てほしい」という希望を結び付けて、「この商品は質の高い眠りを赤ちゃんに提供する」と訴えました。質の高い眠りは脳を育むのに好影響だという科学的なファクトも添えて、ターゲットの高い関心と購買を獲得しました。

 直近の例だと、僕は関わっていませんが、ヘアケアブランドのパンテーン(P&G)が4月にスタートした企画「#この髪どうしてダメですか」が良かったですね。校則に疑問を持つ中高生の気持ちだけでなく、同調圧力に対する抵抗が生まれている今の社会全体の雰囲気をぐっとつかんでいました。SNSで18万件もの反響があり、5月には民間有志の社会人が中心となって、地毛を黒く染める指導の是非を問う署名活動が始まりました。まさに、社会的なムーブメントが起こっています。

#この髪どうしてダメですか 生徒と先生の対話 120秒 PANTENE(パンテーン)#地毛証明書 #HairWeGo

髪型の校則「地毛証明書」とは?【#この髪どうしてダメですか】| パンテーン(Pantene)
 生まれつきの髪色に対し、学校から「地毛証明書」の提出や黒に染めるよう言われたりもする日本の中高生に “その人らしい髪の美しさを応援する”というブランドメッセージを重ねて話題に。

視座を高く、世の中全体を見ようとすること

――なるほど。それらの事例にみられる、ターゲットや社会的な関心事と“つなぐ”という考え方が、日本ではまだ不十分なのですね。そこを変えていく第一歩として、企業がすべきことはなんでしょうか?

 おっしゃる通り、考え方なんですよね。従来のマーケティングや、もっと狭い領域として広告宣伝の発想だと「売る」ことが主眼なので、おのずとブランドや商品の物性的な価値に注目しがちです。企業広報も、自社にばかり目がいって、言いたいことを詰め込んでしまったり。

 物性的な価値やメリットを訴えて売れた、あるいは評判を獲得できた時代はそれでよかったのですが、今はもはやそういう時代ではありません。モノも情報もあふれ、社会の雰囲気にも昔より敏感です。その中で「売る」というより「関係を築く」ことに取り組むなら、視座をぐっと高くして、世の中全体を見ようとすることが第一歩になると思います。

――本田事務所のサイトでは、CMOや経営層クラスと現場との乖離について言及されていました。経営層は戦略PRを求めているが現場に落とし込めない、あるいはその逆で経営層に理解がないこともある、と。そのギャップはどう埋めればいいのでしょうか?

 そこは、本田事務所が特にスタートアップ支援に注力する理由にも通じます。現場に落とし込めないのも問題ですが、経営に正しい理解がないまま「PRで脚光を当ててくれ、話題にしてくれ」と現場に押し付けるケースも、スタートアップでしばしば起こっています。

PR支援の年間契約は本当に必要か

――現実は、PRで話題化するのは簡単ではないのに、跳ねるイメージがある?

 そうですね。実際、情報や関係性を扱うPRは、プロモーションなどと違って舞台裏が見えにくいので、外部からはある日突然話題になったように見えることはわかります。加えて昨今は社会的課題の解決に取り組むスタートアップも増えているので、ビジネスモデルだけでなくその切り口で会社が脚光を浴びる事例もあるのは事実です。

 でも、忙しくて広報専任者もいないのにイメージだけで期待されても、現場はつらいですよね。メディアリストを作るだけで精一杯だったりする。そのギャップを解消するには、やはり期間限定でも、間に入って双方の意思疎通を図れる人が必要です。そういう存在に、僕らがなっていければと考えています。

――期間限定とは? 一般的には、PRエージェンシーとして年間契約などで並走することが多いのではないでしょうか。

 実はその点も、冒頭でお話しした「戦略と戦術を分けて考えられていない」ことにつながります。確かに現状のPR業界のビジネス構造だと、年間契約が中心ですし、1年契約を取れるのに「3ヵ月でいい」というPRパーソンもあまりいないとは思います。でも、本当にその企業のことを考え、費用対効果を高めるには、戦略と戦術の間で何もする必要がない期間にはフィーが発生しなくてもいいはずですよね。

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企業のニーズとPRパーソンの能力をマッチング

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高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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市川 明徳(編集部)(イチカワ アキノリ)

MarkeZine編集部 副編集長
大学卒業後、編集プロダクションに入社。漫画を活用した広告・書籍のクリエイティブ統括、シナリオライティングにあたり、漫画技術書のベスト&ロングセラーを多数手がける。2015年、翔泳社に入社。MarkeZine編集部に所属。漫画記事や独自取材記事など幅広いアウトプットを行っている。
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MarkeZine(マーケジン)
2019/05/13 08:00 https://markezine.jp/article/detail/30914

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