テレビのデータドリブンの進化の道はこれから
とはいえ、デジタルで活用されている様々なアドテクノロジーが、そのままの形でテレビに移行するとは考えにくく、テレビの特徴に沿った独自のやり方が発達していくと見ています。
最も大きな理由としては、テレビを活用する目的の違いがあります。デジタルでは特定の個人にOne to Oneで広告を届けることができますが、一方でテレビはより多くの母数に対して「広く伝える」ことができます。広告主はこれからも、テレビというメディアには「広さ」を求め、デジタルにはピンポイントに刺しに行く役割を求めるでしょう。
このような前提があるからこそ、デジタルでは当たり前となっている個人レベルの配信をテレビで実現するAddressable TVのような精密さを求める手法が、必ずしもテレビでは使用例が広がっていかないのではないでしょうか。
また、CMの出稿枠は、デジタル広告よりも圧倒的に有限です。若年層が多数含有するような人気の番組のCM枠は、米国ではアップフロントで、日本では改編時におおよそ成約してしまうため、デジタルのように無限に広告枠を増やすことはできません。テクノロジーの進化により、CM枠のRTBが実現しても、既にスーパープレミアムなCM枠(米国におけるスーパーボウルなど)の単価を、デジタルのようにRTBで入札することでさらに上げられるのか、といった疑問もあります。
日本テレビ「ASS」は、日本版Advanced TVの流れ
米国では徐々に増えつつあるAdvanced TVは、日本でも同じ進化を遂げるのでしょうか。これも米国と日本ではマーケット環境の違いから、異なる進化、チャレンジが進むことになるでしょう。
日本版Advanced TVの流れの一つとして、日本テレビは2018年から「ASS(アドバンス・スポット・セールス)」という新しいCM枠の購入サービスを開始しました。次いで2019年4月より、系列局である読売テレビもASSをスタートさせています。これは、オンエアの2ヵ月前よりスポットCM枠のプライシングを開示し、1本単位から購入可能にする仕組みで、放映したい日付やポジションまで細かく指定することができるというサービスです。
ASSは海外のAdvance TVの先行事例を参考にしつつも、仕組みとしてはまったく同じ形にすることなく、日本の商習慣とも併存できるモデルに磨き上げています。そのプライシングのサポートにも、当社のデータを始め、様々なデータが使われています。
個人的には、日本では業界の中のキープレイヤーが少ないため、変化が一気に進む可能性を秘めていると感じています。米国の事例を見ると、ダイナミックな取り組みが多い一方で、昨今はディズニーのFOX買収、AT&Tのタイム・ワーナー買収など垂直型の統合が多く、業界横断的な取り組みが進みにくいようにも思います。
それと比べると、日本の場合は放送局の経営形態が安定していることもあり、たとえばテレビ見逃し配信サービスの「TVer」のように、業界を横断した合従連衡を比較的進めやすいという特徴があります。新しい手法をこれから広げるに当たって、ポジティブな部分も大いにありそうです。
日本でも少しずつ芽吹き始めたAdvanced TV。これから先、どのような方向性になっていくのか、継続的に注目していく必要がありそうです。