ダイバーシティ文化こそ会社の力の源泉
――全社でデータテクノロジーを強く推進しながら、一方で30もの個性的なブランドを展開できるのも、そうした多様性によるものなのですね。
そう思います。エンジニアやデータアナリストのスタッフはロジカル思考で、対面のコミュニケーションが苦手な人も多いですが、一方で店舗スタッフは会話力に長けていて、とてもエモーショナルです。「こっちが軸だ」と会社が判断すると、他方が変わり者扱いになってしまうので、全部フラットに捉えています。
そもそも30ブランドもあること自体、個性的なスタッフがいる象徴だと思っています。僕らは個性を活かしてブランド開発をしてきたので、超高級ブランドから超低価格まであるということは、それぞれの好みもライフスタイルも違う、生き方が全然違う人がいるということです。
社内は皆、服装も様々で、金髪もいるし紫の髪色もいます。以前はダイバーシティ推進室を設置していました。ほぼ全従業員がLGBTアライ(支援者、理解者の意味)の表明をしていることもあり、当社には国籍や性別の偏見はまったくありません。女性の働きやすさ向上についての委員会も設置しました。10年前から女性管理職比率は50%を超えています。働きやすい様々な制度を作ったところ、3人目を出産して戻ってくるスタッフも出てきました。男性の育休取得率も9割を超えています。
――今年はSDGs推進室を立ち上げられたんですよね。持続可能な社会への貢献とブランド経営は、どのような相乗効果があるとお考えですか?
元々1999年に「earth music&ecology」を立ち上げたとき、エコの概念は今後の企業活動に欠かせないと考えて命名しましたし、麻は再生が早いからと麻素材を活用したりもしていました。ただ、世の中の人々のリテラシーはまだまだでしたね。エコの切り口でブランディングすれば顧客のエンゲージメントが高まるかと思ったのですが、早すぎました。
その後、ロハス、エシカルと名前は変わりつつ、SDGsに注目する企業も増えて、最近ようやく経団連も盛り上がり始めたなという体感があります。消費者も10〜20代を中心に、「エシカル」という言葉が響くようになってきています。そうしたことも受け、先ほど述べたように今期の経営戦略にエシカルを掲げたのです。

リテールこそ取り組める熱量マーケティング
――30ブランドの中には、エシカルを強く打ち出したブランドもあるのですか?
はい、古着を中心とした「LEBECCA boutique」が最もエシカルマインドが強いです。実店舗はブランド体験の提供のために1店舗のみ。当然、「earth music&ecology」とは規模が違うので、KPIも別にしています。
今年3月に「hotel koe tokyo」で開催したファッションショーはチケットが即日完売し、700人もの熱心な顧客が来場しました。リアルなイベントをすると、熱量のある人が集まりますね。エシカルを軸に熱量を高めてマーケティングをする好事例が、いよいよ出始めるフェーズなのだと感じています。また、5月から全ブランドでショッピングバッグを有料化し、プラスチック素材を使わずに紙に変えていくことも始めました。

Photo by 長谷川健太
――最初にうかがったドーナツ店のお話もそうですが、石川さんはデータによる効率化を重視する一方で、体験もとても大事にされています。今うかがった、リアルな接点での“熱量”と関係してきますか?
そうですね、国際的なトレンドとしてプラットフォーマーがリテールを続々と買収しているのは、リテールでエンゲージメントを高めたいからです。日本では、リテールは生産性が悪いという古い概念を持ち続けている経営者が多いので買収劇が起きていませんが、この先10年くらいで大手のプラットフォーマーがデイリーの顧客データを取れるスーパーマーケットを取り込むのではないかと思います。
逆に元々リテールが得意で、店舗に高いエンゲージメントがある会社がEC人材を集めると、非常に効率的な顧客管理ができるでしょうし、プラットフォーマーにも対抗できそうです。5G時代、ECでは動画を駆使しながら、一方でやはりリアルには勝てないので、店舗は来店客に感動を与える体験の提供にぐっと振り切る。スーパーマーケットならマグロの解体ショーなどもいいですよね。リタイアした職人さんに第二のキャリアとして依頼したらいい。
リテールは熱量を生みやすい。昔からそうですが、僕らはオンラインと連携した新しい時代の熱量マーケティングに取り組んでいきます。たとえば「earth music&ecology」で、テレビCMやデジタル広告に加え、エシカルを感じてもらえるミュージカルをするとか。音楽業界におけるライブのような、お客さんの心に訴える喜怒哀楽のある体験を創出して、ロイヤルティをさらに高めたいと思います。