※本記事は、2019年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』42号に掲載したものです。
売れていない理由が明確なら斜陽産業にも勝機はある
株式会社ストライプインターナショナル
代表取締役社長 兼 CEO 石川 康晴(いしかわ・やすはる)氏
1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。1994年、23歳で創業。1995年クロスカンパニー(現・ストライプインターナショナル)を設立。1999年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円を超える。公益財団法人石川文化振興財団の理事長や、現代アートの国際展覧会「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。
――多岐にわたる事業を展開する御社ですが、昨年は主軸アパレルブランドの「earth music&ecology」でAIによる在庫最適化と過剰な値引きの解消を実現しました。2019年度の事業計画では、それを全ブランドで実施して、粗利を3.7%改善すると発表されていましたね。
大量生産と在庫過多、それにともなう大幅な値引きや廃棄は、現在のアパレルが抱える大きな問題です。当社もセール時期の1月と7月は大きな赤字が出ていましたが、生産量を適正在庫まで抑えて、売上額は下がってもしっかり利益を確保できる状態を目指しています。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの一環として、廃棄率0.2%の目標を打ち出し、2月にはSDGs推進室も発足しました。
――アパレル事業では海外進出も強化する傍ら、2015年に事業領域を「ライフスタイル&テクノロジー」に転換してからは、ホテルや飲食などへ事業を多角化されています。特に、ライフスタイルブランド「koe(コエ)」から、ドーナツ店の「koe donuts」がオープンしたことは驚きました。直近のニュースとしてうかがいますが、なぜドーナツだったのですか?
昨年、中国のアリババが出資している生鮮食品スーパー「盒馬鮮生(フーマフレッシュ)」や、上海の「スターバックスリザーブロースタリー」1号店を視察して、ライブ感のある店舗体験が印象に残りました。
一方、次なる飲食業態のいくつかの候補のうち、ドーナツは老若男女が好きなおやつです。それなのに、コンビニのレジ横に並べただけの販売は早々に撤退し、大手チェーン店でも陳列棚から自分で取るだけで楽しさもなく、斜陽産業といった印象でした。
プレーヤーが弱く、売れていない理由が明確なら、斜陽産業にも勝機はあります。そこで目の前で揚げて提供する工場併設型にし、店舗デザインを隈研吾氏に依頼し、さらに時代に即してローカロリーの玄米油や調達に配慮した国産原料を用いた“エシカルドーナツファクトリー”を計画したのです。エコやロハスの流れを汲む「エシカル」は、倫理的という元の意味から転じて、環境や社会に配慮した持続可能な活動といった概念で使われており、当社はこれを今期の経営戦略にしています。
場所にもこだわり、海外インバウンドと国内観光客と地元の人がそれぞれ3分の1ずつ集まっている京都の新京極に出店しました。東京でいう浅草のようなエリアです。役員会議では5対4でかろうじて通った案でしたが、エシカルという時代性を加味した国民的おやつは大きく当たり、3月の開店以降、売上はとても好調です。