変わらなければ終わる チャネルの変遷に沿って成長
――昨年、WebのMarkeZineで取材させていただいた際に、「そもそもアパレル業界自体がずっと斜陽産業で、その中で戦ってきた」というお話がありました。斜陽産業のアパレル業界内、そして業界の枠を超えて事業を拡大できるのは、なぜなのでしょうか?
そうですね、僕らは単に市場の変化に合わせて路線転換をしてきただけなので、小難しいことはまったくしていないんです。いつも、マクロとミクロの視点でものを見るようにしていますが、そうすると時代とともにアパレルもどんどんフェーズが移り変わっていっているのがわかりますし、異業種でも先ほどのドーナツのような狙いどころが見えてきます。
僕らが起業した25年前は、原宿文化を中心にパンクやモード系の個性的なブランドが流行り、次に駅ビル、さらに大型ショッピングモールが主流になっていきました。そのあたりからアメリカのように車で買いに来ることが前提のロードサイド店が増え、その後のフェーズがECです。
――そうした移り変わりに合わせて、柔軟に変化してきたのですね。
ええ。常に変わっていく必要があるという危機感をもっています。それに異論を唱える人はあまりいないと思うのですが、ミクロの変化を分析できないと、主戦場としていたマーケットが廃れつつあることに気づかず、チャネルを移れないしECにも乗り遅れます。
縮小しているアパレル市場で、創業時は年商2,000万円だった僕らが1,300億円規模まで成長できたのは、伸び悩む市場の中でもフェーズごとに伸びているところを見つけ、寄せてきたからだと思います。逆に、マクロな視点では伸びている産業にも“オワコン”もある。それをミクロな視点で見定めること、それだけだと思います。
膨大なデータ量を魅力にテック人材が集まる
――その“それだけ”が、なかなかできずに追い込まれる企業も多いと思います。

成功体験が、邪魔をするんですよね。僕らは「アパレルは5年で終わる」とわかっているので、3年をひとつの節目と捉えて、まるで遊牧民のように新天地を求めるようなところがありますね。
――なるほど、遊牧民ですか。特にアパレルではテクノロジーへの抵抗があるのか、デジタル化に後れを取っているようにも見えます。御社はそんなしなやかな姿勢だから、百貨店ブランドのモール型ECやサブスクリプションのファッションレンタルにも自然に取り組めたのでしょうか?
そうかもしれないですね。ただし、ECをやれば生き抜くことができるわけではありません。今、多くの会社が「EC化率」を重視し、現場は一生懸命に数字を追いかけていますが、店舗と合わせて見ると結果的に赤字という会社もあります。会社全体は傾きながら、EC化率だけ「15%達成した」などと言っているのは、おかしな状態です。僕らはそういうところからは抜け出しています。
――テック人材の採用にも苦戦する企業が多いですが、御社では?
当社も5年前は苦戦しましたが、これも完全にフェーズが変わりましたね。以前は東大や京大、慶應の理系棟を回って一本釣りで説得しようとしても、アパレルではカートを作らされるだけ、イノベーションが起きそうにないと、見向きもされませんでした。それがあるとき、「データを触れるよ」「1,200店舗分、1億人分の購買データが毎年取れるよ」と話し始めたら、俄然興味をもってくれるようになりました。
データを軸とした“リテールの逆襲”
――テックカンパニーとして、データの魅力を打ち出されるようになったのですね。
それで潮目が変わった手応えがありました。実際、僕らのデータは業界の枠を超えたIT企業なども興味をもってくれています。リテールはこれまでテクノロジーに後れを取っていましたが、ここへ来てデータを軸にした“リテールの逆襲”ともいうべきフェーズに入ってきたと感じています。購買に関する膨大なデータがあるから、優秀な人も集まり資金も集まる。ただし、データの重要性に気づかなければこの転換ができず、採用にも苦戦し続けるでしょう。
ですが、ビジネスを成長させるトレンドも、またフェーズが移り変わっていきます。今は当社もデータとAIで在庫最適化などに注力していますし、人はAIとBIを片手により創造力を発揮できるようにと考えていますが、5年も経てばAIでも差がつかなくなるでしょう。そうすると次はきっと、デザインに注目が集まると思います。
――それを見据えて、テック人材の次はデザイン人材を採る?
そうですね。現時点でも、データだけ見ていても新しいものは生まれませんから、ビジネスの成長には人々が何を求めているのかを捉える定性的なマーケティングが重要です。そのためにAIとBIで業務を効率化して、人はできるだけクリエイティブに専念することが大事だと思っていますが、その傾向が強くなると、おのずと美大出身だったりクリエイティビティーに長けた人が活躍する領域が大きくなるでしょう。
事業領域や注力するテーマが変われば、当然それに対応する人材が必要です。その際、当社はずっとダイバーシティの文化を大事にしてきたので、どんな分野の人でもすぐになじんで活躍できると自負しています。そういう社風をつくれたことが、この四半世紀で一番の成果かなと思っていますね。