生活者の意思決定構造
2015年にインテージで実施した定量調査(5,000サンプルあまりのインターネット調査)の中で、購買行動のプロセスを進めた情報接触と、それによってどのようなパーセプションが生まれたか、というデータを8カテゴリーにわたってとったことがある。その結果を構造化したものが図表1である。

カテゴリーによって若干の違いはあったものの、「話題感」と「共感」が購買プロセスを進めるのに重要な要素となっていることがわかる。様々なチャネル(メーカー発信の広告などの情報、店頭や口コミ・SNSなど)から「話題になっている」「売れている」という印象を受けると、興味が喚起され、検索行動が起きる。
そこで自分の価値観やニーズに合った経験の提供(への期待)があると「共感」が生まれ、ブランドとの「絆」へと進化し、アンバサダー的な役割をもって共創する生活者となる。さらにそれがシェア行動を促し、話題感へとつながっていく、という構造になっているのがわかる。
ブランドとの絆を育む経験価値をどう捉えるか?
ここでのキーワード「経験」という言葉は、哲学、心理学、行動経済学などにおいても広く使われてきた言葉であるが、マーケティングにおいてよく使われるようになったのは、1990年代末から、SchmittやPine&Gilmoreによって顧客経験の演出に関する重要性が指摘されるようになったあたりからであろう。
Pine&Gilmoreは、企業が生活者に提供する価値の変遷として、19世紀の「コモディティ」に始まり、20世紀には「製品」としてのスペックが重視される時代となり、1990年代には付随する「サービス」全体、2000年付近で提供の前後に付随する「経験」が非常に重要になってきたと述べている。今後は「革新」を経験させてくれるブランドに生活者は価値を感じ、絆を形成していくのではないかとも予測している※1。
強い絆を作るブランド経験の構造分析、必要な要素の抽出を行い、どのような要素を含むブランド経験があると強い愛着が形成されるのかを明らかにしようと試みるにあたり、コグニティブ・インタビューという手法を用いた。コグニティブ・インタビュー(認知面接法)とは、1980年代半ばに米国の心理学者GeiselmanとFisherにより発表されたインタビュー手法である。元々は犯罪心理学で用いられた方法で、従来の事件の目撃者に対するインタビューへの反省として生まれている。
ここでは誌面の都合上詳述は難しいが、これらのより豊かな情報を引き出すための工夫が着目され、マーケティング・リサーチの領域でもカンファレンスで活用事例が発表されるなどの展開が見られる。
※1 『[新訳]経験経済』B・J・パインⅡ著、J.H.ギルモア著、岡本慶一/小高尚子訳、ダイヤモンド社、2005年8月