※本記事は、2019年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』42号に掲載したものです。
経験が重要になった背景
近年、「顧客経験」「ブランド経験」など、経験という用語がマーケティング研究や企業実務においてより頻繁に使われるようになり、実務上の必要性が指摘されている。しかし、その経験の定義は様々であり、測定方法、生活者行動との関係性、ひいては経験を作るための施策への応用までが確立しているわけではなく、研究分野としてその端緒が切り開かれたばかりである。実務においても顧客経験への関心が高まり、生活者の経験を主語としたカスタマージャーニーに再び脚光があたっている状況である。
この状況の背景として、急激な環境変化がある。まず「情報の変化」として、SNSやオンラインメディアの普及なども含む接点の多様化、情報の流れの複雑化、情報過多という状況が挙げられる。「生活者の変化」に関しては、ライフスタイルの多様化、生活者のメディア化など、従来のデモグラフィック属性やサイコグラフィック属性では対応しきれない変化が起きている。
これらの変化により、生活者とブランド間の接点が多様化および複雑化。さらに、デジタル文脈でのCX/UXへの関心や生活者自身のメディア化による共創の重要性が高まり、「モノ消費」から「コト消費」へと移行していくなど、「マーケティングの変化」も急激に進んでいる。
その中で多くの企業は、市場の成熟、商品・サービスのコモディティ化などから、機能面での差別化が困難となり、新しいタッチポイントを含め「顧客経験をどう捉え、いかに組み直して、ブランドのファンを増やせば良いのかわからない」という課題を抱えている。
カスタマージャーニーの描き直しや、発信する生活者の切り口での新しいセグメントの導入などに対応するため、ブランドエクスペリエンス関連の部門が新設された企業も、外資系を中心に多く見られる。
デジタル化の進展にともない、オンライン、オフラインを合わせたポジティブなカスタマージャーニーを設計するために、まずはどのように顧客経験の把握、意思決定構造の可視化を行うかという議論が進み始めているのだ。