創業から12年連続で成長するDoCLASSE
本記事では、EC、カタログ通販、リアル店舗と多チャネルで40~50代女性の心を離さず急成長するファッションブランドDoCLASSE(ドゥクラッセ)CMO兼WEB事業長の藤原尚也氏の顧客体験作りと思考法に迫る。
インタビューするのは、アプリとWebをシームレスにつなぎ、LTVを高める「カスタマーエンゲージメント」に重点をおいたマーケティングプラットフォーム『Repro』を提供しているRepro株式会社の齋藤修氏。顧客の心が動くタイミングでコミュニケーションをとり続けることが最適な顧客体験だと考える齋藤氏が、藤原氏とOMOをテーマに今後のマーケティング戦略について踏み込んだ話を展開していく。
齋藤:今日は、「どうやって優れた顧客体験を通じてお客様と長期的な関係を築き、LTVを高めていくのか」をテーマに、デジタルマーケティング黎明期から第一線で活躍され、数々の企業の事業拡大に貢献してきた藤原尚也さんにインタビューしていきます。
藤原さんがCMOを務める「DoCLASSE」では、カタログ通販、ECに加え数多くの店舗もお持ちですが、売上の構成はどうなっているのでしょうか。
藤原:今は店舗と通販で半々といったところです。さらに通販の売上は、Web注文と電話注文で大体半々に分かれている状態なので、店舗50%、Web注文25%、電話注文25%の比率ですね。
齋藤:近年多くのカタログ通販企業は苦戦を強いられている状況にあると思うのですが、DoCLASSEは2007年の創業以来12年連続で売上を伸ばしていらっしゃいますよね。
藤原:うちが上手くいっている理由はいくつかあります。一つは、社内で見ている独自の指標です。たとえば、カタログはWeb以上にすごく細かい数字のKPIを全部見ていて、そこのスキルが相当高いんだと思います。
加えて、ターゲットと商材がすごくシンプルであることも挙げられます。同業他社だと、服から雑貨まで多品目を取り扱っていますが、DoCLASSEでは商材を絞り、在庫コントロールを徹底していて、ターゲットも40~50代の女性からブレさせません。
LTV下降を食い止めるため新聞広告からテレビCMに予算をシフト
齋藤:昨年は印象的なCMをばんばん打たれて、今まで攻めていなかった領域を切り拓くようなチャレンジをされていましたよね。
藤原:そうですね。当時は、DoCLASSEを大きなブランドにしていくために、看板商品を作っていかなければと考えていました。そこで目を付けたのが、2017年に発売して評判だった、軽くてシルエットがきれいでスリムに見えるのにダウン並みに暖かい「マジカルサーモコート」です。これをどうにかブレイクさせようとテレビも活用して大々的にプロモーションを行っていたのですが、そこには、新しいマーケティングプランを作りたいという考えもあったんです。
と言うのも、これまでは新聞広告を多用したマーケティングを行っていたのですが、新聞による新規開拓は有効ではあるものの、顧客リストを見るとコアターゲットではないシニア層も一定数含まれるようになります。コアターゲットでない顧客層の割合が増えてしまうことで、全体としてのLTVが下がっていく傾向が見えました。
そこで、DoCLASSEの商品を幅広く楽しんでいただける40~50代のコアターゲット層を中心に新規開拓と休眠顧客の掘り起こしをするのが中長期的にはプラスだと考え、新聞広告の予算を減らしてテレビCMを打つという方針に転換しました。
テレビCM・Web・店舗のトリプルメディアを連動させる
また、テレビCMからWebもしくは店舗への送客は強く意識した点でして、CMには検索窓を入れ、サイトはCMの受け皿として刷新しています。加えて、店舗では、店頭の入り口にマジカルサーモを置いてもらって、40~50代の女性から見て「自分と同じようなお客様が群がっている状態」を作り、人が入りやすいようにするなど色々と策を練りました。これらは店舗の入り口をメディアに見立てた施策でしたね。
齋藤:リアルな店舗のことまで考えたマーケティングができるのは、藤原さんのビジネスマンとしての生い立ちと関係があるように思うのですが。
藤原:それはあると思います。僕のキャリアはTSUTAYAの店舗で働くところからスタートしているのですが、当時はインターネットが主流でない時代で、顧客データからDMを配るエリアを選定して客単価を上げることに尽力していました。
その後は、TSUTAYAオンラインの立ち上げを任され、EC事業、データベース事業の立ち上げなどを行ってきましたが、そんな中でDMハガキをメールに、予約受注を店頭予約からWeb予約へと、元々店舗でやってきたことをデジタルに置き換える、そんなマーケティングをずっとやっていたんです。なので、個人としてもオンラインとオフラインを分けるというよりも、ミックスするもの、と考えているのかなと感じますね。
OMO時代には「来店していないときの顧客接点」が重要に
齋藤:オンラインとオフラインの区別がどんどんなくなっていて、店舗のみ利用する人、Webのみの人、店舗とWeb両方を利用する人と利用の仕方も広がっていると思うのですが、そのような状況下でどのように顧客接点を最適化してコミュニケーションを取られているのでしょうか。
藤原:大事なのは、お客様がサイトや店舗に来ていないときにどれだけ接点を持てるかを考えることだと思います。当たり前のことではありますが、ユーザーの生活を考えると、サイトや店舗を訪問していない時間が大半です。そこで、その時間にどう自分たちの情報に触れてもらうきっかけを作るかを重視しています。
具体的な施策で例を挙げると、カタログは、ご自宅に置いてふと思い返したときに読んでいただくことに意味がありますし、CMも普段意識していないときに目にしてもらうことに意味があるんです。
齋藤:常に意識しておいてもらうために、CRMのポイントを色々なところに張っておくということですね。ちなみに、コミュニケーションツールやチャネルが変わってくる中でユーザーの変化を感じていることはありますか。
藤原:最近だと「DECAX(デキャックス)※」という購買行動フローの話をよくするのですが、今の消費者たちは購買行動のスタートがAttention(注意)ではなくDiscovery(発見)から始まっているのが変化のポイントだと考えています。
そうなったのは、すべての情報が「タイムライン化」されたからです。情報の「タイムライン化」はSNSの成長によって加速し、今はほとんどのメディアがタイムライン化され、パーソナライズされています。自分の見たい情報や、自分と関係のある人たちがいいねした情報が優先的に上がってくる中で、たまに自分が今まで見たことのない情報にも目をやるロジックになっていて、それに合わせて広告やコンテンツが変わっていますよね。
齋藤:売り手側の理屈でモノを売ろうとか、売り手側のタイミングで何かを発信しても何の意味もないということですね。伝える内容やタイミングが重要になってくる。
藤原:そうですね。また、内容やタイミングに加えてコミュニケーション手段別に情報を分けることも大事でしょう。これらの重視すべきポイントをおさえて「タイムライン化」したメディア環境にふさわしいコミュニケーションを取っていくためには、DECAXで考えることが有効だと考えています。
※DECAXとは購買行動フローのフレームワークで、お客様が自分でDiscovery(発見)し、その情報やコンテンツに触れる中でEngage(関係)が高まっていくと、自分に合ったものかどうかをCheck(確認)し、Action(購買)に移ったのち、Experience(体験共有)するという5つのプロセスで構成される。
「Web購入商品もリアル店舗で返品OK」施策が来店率に寄与
齋藤:DoCLASSEでは、リアル店舗での通販商品返品受付というまさにOMO的な取り組みをされていますが、お客様の反応はどうですか。
藤原:EC返品サービスは4月から始めまして、現在はちょうど数字を取っているところです。今までは、届いた箱の中に返品カードが入っていて、それを書いて送り返す方法だったのですが、返品前にどこに返金すれば良いかなどの確認で電話する作業が発生していました。
もっとWebでの返品を簡単にしようと考えたときに、店舗に持っていくのが楽なのではとの考えに至りスタートさせたところ、想像以上に店舗に持って来られる方が多かったので、そういう意味では来店率にも影響を及ぼしているのではと予想しています。今は店舗での返品は対象店舗に限って受け付けているのですが、全店での対応を準備中です。
齋藤:これからデータ分析などされると思いますが、リアル店舗に返品する場合って商品を返品したときに、新しい商品を買っていくようなアクションも起こりそうですよね。
藤原:店舗で交換の提案はしていますが、交換がてら他の商品を購入される場合もあります。店頭に持ってきてくれた人で、そのまま帰ってしまう人も一定数いらっしゃいますが、その人たちにはあとでメールを送れるようにしようと現在準備しています。
顧客データ統合し次世代CRMの実現を目指す
齋藤:より良いコミュニケーションをお客さんと取ろうとする中で、データ活用の重要性はこれから増す一方だと思います。どのような取り組みを考えていらっしゃいますか。
藤原:今はまだ店舗における行動データが取れていないのが課題になっています。なので最初のステップとして、アプリの会員証を作り、店舗と電話とWeb上の顧客データ統合を行わなければならないと考えています。
その次に、お客様にどのタイミングでどんな商品を提案するかを、購入ベースでできるところまでやったら、普段の自分では買わないような商品の提案というのも行っていきたい。それにはAIを使わないと難しいかとも思っていて、どこまでできるのかを相談しているところです。
リコメンドや個客軸での売上予測といったCRMを本気でやろうと思ったら、店舗やEC・電話といった横のデータをちゃんとつなぎ合わせていないといけませんし、購買したかどうかだけでなく、サイトへの来訪頻度や、こちらが送った情報への接触・非接触まで見ないとわかりません。
本当は、店頭の入り口まで来た人なのか、中まで入ったのか、試着室までいったのかまでデータを取って提案につなげられたら究極的かなと考えているんです。
膨大なマルチソースデータを活用できるマーケターを育成するには?
齋藤:今までのお話の中で、テレビCMからデジタルまで、コミュニケーションの一連の流れをお聞きしましたが、そこから生まれてくる膨大なデータをベースにロイヤリティを高めていこうとする中で、補助するツールはたくさんあると思うのですが、実際にそれを進めていくマーケターの育成ってすごく難しくないですか。
藤原:色々な考え方があると思うのですが、僕は「人を育てる」という考えはおこがましいと考えているんです。経験から言えば、自分の仕事を一緒に横でやってもらう以外ないと思う。
僕らがデジタルをやり始めた頃はやったもの勝ちなところがあったけど、今は手法がありすぎてその中から組み合わせてオリジナルのものを作っていかないといけない。僕自身必死にやっているぐらいなのに教えるのは難しいですよね。
それと、マーケターにはマーケティングスキルと同じぐらい、調整能力や意思決定力が必要だと思うので、そうしたことも一緒に仕事をする中で伝えてあげないといけないですしね。
齋藤:ツールを使いこなせている人がすごいマーケターみたいに捉えられることもあると思いますが、それは全然違っていて、そのツールによって生まれることの道筋を作ってあげて、運用する人は誰でもいいみたいな世界じゃないと回らないと思っています。
デジタルマーケティングのテクニカルな部分はある程度アウトソースしてしまって、クリエイティブや戦略、ブランドと顧客の関係性を築いてつなげるためにできることを考えられるような環境を整える部分に頭を使えるような環境を整える必要性を考えていただきたいです。
多分予測と分析は、どんどんコンピューター側に任せていって、それをもとに仮説を作るところを人間がやっていかないといけないのかなと思いますね。
藤原:過去やったこと、誰かがやった施策のデータってほぼ使えないんですよね。結局新しいものを作らないといけないから、そのときに過去の数字だけ見てもできなくて、ほぼ仮説ベースで思い切ってやる部分も大きい。
だって突然2万4000枚しか売っていないマジカルサーモを18万枚売れって言われましたもん(笑)。そんなの過去の実績だけで判断したら無理だと思うじゃないですか。そこは腹括らないといけないし、そういうときに僕は、こんな世界観を作ったらその数が作れるかもという予測から逆算して、そう言える根拠作りのためだけに過去のデータを持ってくるみたいなやり方をするのですが、そういう感覚も一緒に仕事をやってみて覚えていくものではないでしょうか。
Repro主催!8月7日(水)に「OMOによる顧客体験向上」をテーマにしたイベントを開催します。
~パルコ、ピーチ・ジョン、オプト、逸見氏、i3DESIGNが登壇!小売業界で勝ち抜くための最先端マーケティングとは~
店舗とオンラインの融合を実現させるため、オムニチャネルに取り組む事業者が増えていますが、まだまだ成功している企業は数少ないのが現実です。人口減少が続く日本では、店舗を中心としたビジネスは苦戦を強いられているのが実情で、これからの時代は、ECやアプリなどのオンライン連携が不可欠となります。
本イベントでは、国内でOMOなどに取り組む企業担当者をお迎えし、事業成長や顧客体験向上に向けて現場ではどのように考え、どのように実践しているのかをトークセッション形式でお届けします。詳細とお申し込みはこちら