Marketing Cloudで新しい顧客体験を提供する
オーナーの一言で始まった3,200万人の会員データ活用プロジェクトだが、当初は吉田氏が一人でプロジェクトを進めていたという。当時、吉田氏はビジネススーツブランド「AOKI」の販促部門に所属していたため、まず無駄な販促費を削減することでMarketing Cloudの導入費用を捻出するところからプロジェクトを開始した。また、セールスフォースが主催するビジネスイベントにも積極的に参加し、知見を広げていったという。
そして、同社のECチームや販促チーム、店舗スタッフなど現場の社員と共に、セールスフォースのワークショップに参加し、カスタマージャーニーマップを作成。そのジャーニーを基に社内でプレゼンを行い、MAの導入・活用を説得していった。
■作成したカスタマージャーニーマップ
■それぞれの施策の狙い
「私はMarketing Cloudを単なる施策実行ツールではなく、新しい顧客体験を提供し、経営を変えるハブにしたいと考えていました。その考えを理解してもらうため、セールスフォースさん協力のもと、目指すべき顧客体験を伝える動画を作成し、経営陣の前で発表しました。
またこれまでは販促部がマスマーケティングやDMを展開しているだけで、社内全体では顧客起点の考えがあまり根付いていませんでした。Marketing Cloudの導入をきっかけにデジタル・CRM推進室が立ち上がり、ひとつひとつ実績を積み上げていくことで、CRMやMAに関する理解を深めていったのです」(吉田氏)
購買を起点としたコミュニケーション施策で、売上・ロイヤリティ向上を目指す
Marketing Cloudで最初のMAシナリオが走ったのが2018年の1月のこと。それからシナリオを実装していくごとに、少しずつ成果が見て取れたので、その成果を経営会議や、各地域の店長が集まる店長会議に足を運んで発表し、MA活用に対する理解者を増やしていったという。
実際にMarketing Cloudの運用に携わっている同社デジタル・CRM推進室 副主任の完塚千絵氏は「現在は、売上向上とロイヤリティ向上という2つの目的の下、半年期間の中で9つのシナリオが動いています」と説明する。たとえば購入翌日には、次回来店時に使えるクーポン券と共にサンクスメールを送信。店頭でスーツの補正を依頼した顧客が後日引き取りのために来店した際、初日では買わなかった靴下やシャツを購入する時に使われるそうで、店舗はもちろん顧客からの評判もいい。
■ファッション事業のMAシナリオ
「これまでは年1回の来店頻度が普通でしたが、その回数を向上させるため、ポイント有効期限の通知メールを送ったり、購入後1ヵ月〜半年経ったお客様には、サイズ補正サービスのメールを送ったりしています。こちらも大きな成果が出ています」(完塚氏)
店舗スタッフからの提案で始めた施策もある。それが購入して10日後に送る「サイズ通知メール」だ。それまで同社では、スーツ購入時に計測した寸法を店員が自分の名刺にメモして顧客に渡していたが、その名刺をずっと財布の中などに保管しておいて、次回来店時に「このサイズが欲しい」と注文される顧客が非常に多いのだ。
「そこで、購入後にお客様のサイズを記載しただけのメールで送信し、永久保存を促すようにしました」と完塚氏は説明する。小さなことだが、これにより顧客エンゲージメントがより強化できるというわけだ。