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老舗メディア「スポニチ」が挑む デジタルビジネスモデル構築

老舗の資産を活かした紙×Webのマネタイズ

――スポニチは、「Sponichi Annex」も好調だそうですね。おっしゃるとおり、紙ベースだと顧客情報の収集や直接の関係性の構築は難しいと思いますが、既にWebの基盤もあることは大きいと思います。

 そうですね、「Sponichi Annex」は昨年の年間PVが20億(マイナビのインタビューより)に達するなど、成果を上げています。現状の読者からの支持を踏まえて、広告収入なのか、コンテンツ別の課金なのかなど、マネタイズは組み合わせで考えられると思います。今は無料で閲覧している方でも、ターゲットによって「これならお金を払ってもいい」というコンテンツを企画できれば、制作費をかけて課金に足る価値をお返しすることもできます。

 たとえば、これも当社の大いなる資産だと思いますが、スポニチには小海途良幹(こがいと・よしき)という社員カメラマンがおり、彼自身にファンがついています。特にアイススケートの羽生結弦選手の写真がとても好評で、彼の撮影による羽生選手の写真集もヒットしているのですが、これがデジタルでは展開できていません。高いクオリティを前提に、こうした熱量のある切り口なら、デジタルでの価値提供とマネタイズは十分にできるはずです。

 また、スポーツは当然、芸能の分野も取材力やネットワークを含めてスポニチはとても強いです。そうした蓄積を活かした、かつデジタルも味方につけた“新しい新聞”の形を、ゼロから開発するつもりで取り組んでいます。“コト”ベースのセグメントを模索する

――紙の読者とネットの読者の違いは、どう捉えていますか?

 まだ分析中ですが、紙の読者でもWebも併用する人が増えているので、デジタルの利便性を高めたいとは思っています。ただ、様々なメディアをユーザーの側が自由に横断している今、もはや「紙か、Webか」という議論が消えていくのではないか、とも思いますね。

 語弊があるかもしれませんが、紙媒体はどうしてもスペースの問題で、伝えられる情報は限られます。でも、紙とWebを地続きのものとして捉えて、紙では端的に伝え、拡張版がデジタルだと考えられれば、それだけで大きな広がりを生み出せると感じています。とてもベーシックですが、記事や広告にQRコードをつけて、より深く知りたい人を誘導するとか。紙面で気になったことを自分で検索するより、紙面にQRコードがあるほうがずっと便利なはずです。今後検証を重ねて、読者の利便性が確かめられたら進めたいと思っています。

――若年層の獲得については、どうお考えですか?

 当然、若い人を取り込まなければとは思いますし、若手社員からいろいろな提案も出ています。体制を整えつつ、これらを推進するのも重要です。一方で次第に年齢や世代以外のセグメントのほうが有効になりつつあるとも感じているんです。

 年齢の差よりも、むしろ「体を定期的に動かす人/そうでない人」「ウォーキングをする人/しない人」「山登りをする人/しない人」のような切り口のほうが、差が大きい場合があると思います。逆にそのセグメント内では、20代でも50代でも価値観が似ていたりします。そうすると、セグメントや顧客像の捉え方も嗜好軸、“コト”ベースにすべきですよね。今はそうした明確なセグメントがないので、新たに作れば効果的かもしれないと思います。

小さな実験を重ねられる予算を持とう

――最後に、メディア企業のデジタル化についてアドバイスをいただけますか?

 冒頭のお話にも通じますが、老舗のメディアほどデジタルへの対応が難しい側面もあり、またメディア企業にはマーケティング部門がないことも多いので、なかなか進まない現状があるようです。

 そうですね、課題や最適な打ち手はメディアによってかなり異なりますが、まずは「強み」の棚卸しから始めるといいと思います。スポーツ紙なら前述のようなスポーツにまつわる“コト”ベースで、他紙とどう差別化するか。一般紙は、たとえば文化教養軸でどこにフォーカスすると勝算がありそうか。何が得意なのかを見極めて、その分野で紙とデジタルの効果的な活用、またコミュニティづくりを含めたユーザーとの関わりの充実を考えるのが、これからのメディアの在り方だと思います。テレビもWebメディアも、同じです。

 一次情報生成メディアは特に、「いいコンテンツを提供すれば見られる/広まる」という昔からの考え方が強いですね。もちろん、コンテンツの質が高ければ選択される確率も上がりますが、今の時代、それだけでは誰の目にも留まらない可能性も大いにあります。

 ――ディストリビューションも十分に考えないといけない。

 そのとおりです。そして、そのチャネルの一つが、人です。昔はスピードの遅いリアルな口コミだけでしたが、ソーシャルでは圧倒的に速く広がるので、ネット上の拡散とセットで考える必要があります。「いいものを作れば……」の発想は、もはや幻想です。経営の数字を見れば、おのずとわかるのではとも思いますが、この考えはもう捨てないといけないですね。

 加えて、特に経営陣にお伝えできることとしては、デジタルは特に小さな実験を重ねることで成果を上げられます。なので、多少のマーケティング予算を持たないと進みません。小さくても何らかの取り組みを進めていくことで、社内のマインドセットも変わり、スピード感も出てきます。

 また、アプリや決済サービスなどのキャンペーンがテレビCMで集中的に展開されることが相次いでいます。紙媒体の皆さんは、個々人でも世間の流行や新興サービスの動きに敏感になって、こうした「新興サービスの広告費を獲得する」発想を持つ必要があると思います。

 日本のトラディショナルメディアは、海外に比べると非常に守られている業界ですが、海外ではすごく栄枯盛衰が激しいです。スポニチも危機感を持ち、またパートナー企業や異業種とも柔軟に組みながら、時代に即した新しい新聞の形を打ち出したいと思います。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2020/08/06 16:35 https://markezine.jp/article/detail/31778

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