ネット広告業界に起きる3つの変革
そして、ここからが大事だが、ネット広告業界の変革も視野に入っているはずだ。論理的に考えて、まず、3つの影響が考えられる。
一つは、フェイクニュース対策だ。二つ目は、アドフラウド対策、そして、三つ目は著作権違反対策だ。
リブラは、マネーロンダリング対策のために、将来的に、本人確認をせざるを得ない。ローンチ後にいずれ、実施するだろう。今、日本の銀行でも、免許証やパスポート、住民票の提出などを、銀行口座開設時に要求される。そうすると、本人確認が取れた状態で、リブラのアカウントとFacebookアカウントを紐づけることができる。おそらく、原則として、個人の同意の上で、実施するだろう。そうなると、Facebookでの閲覧履歴・行動履歴とリブラのアカウントが連動する。つまり、いずれは、ユーザーのアクションに応じて、ポイントを付与しそれをリブラに換金できるというサービスも可能になる。
ここで、リブラが、「マイデータ・インテリジェンス」など情報銀行的な性格を帯びてくることになる。

ポイントがあるのであれば、個人情報・データを問題のない範囲で広告配信などに使ってもらってもOK、と考える人も出てくる。おそらくは、マネーロンダリングなど違法行為をしている人以外は、ポイントのために個人情報・データを一部、提供することに拒否反応は少ないのではないか。
そして、本人確認が取れた状態になってしまうと、マケドニアのフェイクニュース工場の事件みたいなことは無くなっていくだろう。なぜなら、複数アカウントを大量に発行して、偽情報をFacebookで流すのは、やりにくい。本人がバレてしまう。つまり、透明性が高まる訳だ。もし、本人確認に応じないのであれば、広告配信をできなくするなどの手段もあり得る。
広告詐欺(アドフラウド)も、まったく同じだ。本人確認済みのアカウントからのインプレッションやクリックだけを課金対象にして、本人確認が取れていないユーザーのものは排除し、課金しないという施策を将来的には考えているだろう、というのがシリコンバレーの知人の推測だ。
そして、漫画村などの著作権違反対策。悪意をもって著作権違反コンテンツをアップロードする人間が、進んで本人確認に応じるのか? 漫画村の犯人は結果的に逮捕されたようだが、海外のサーバーなどを使い、身元がわからないようにして、逃げ回ったらしいと聞いている。
リブラのWhite Paperに、ざーっと目を通すと、「It is built on a secure, scalable, and reliable blockchain」と書かれている。ブロックチェーン技術で、より安全性の高い、スケーラブルな、そして、信頼性の高い空間を構築しようとしていることがわかる。
ここまで読んでいただければ、Facebook「リブラ」と電通「マイデータ・インテリジェンス」の関係がある程度、見えてきたと思う。あとは、個人情報・データの主導権を誰が持つかによって、日本人の個人情報・データをFacebookやその他のプレーヤーが利用する際に、その利用料やデータ料のお金の配分が、どのようになるかが変わるはずだ。もちろん、その主導権は、日本人自身が持ったほうがいいと私は思っている。
来年、個人情報保護法が改正されると聞いている。IDやクッキーなども含めて、個人情報としてきちんと定義することができれば、ますますリゾーム化する社会において、将来的に、個人への所得再分配を有利に進めることができるだろう。
そして、量子コンピュータの普及で仕事を奪われる広告業界も、「マイデータ・インテリジェンス」のようなビジネスモデルを準備しておけば、多大な利益を生むことになり得る(という予感がする)。