新たなビジネスモデルの根拠をどこに求めるのか?
2015年に『権力の終焉』という本が出た。この本は、マーク・ザッカーバーグ主催のブッククラブ第1回の課題書に選定されている。
私はこの本を手に取ったとき、「なぜ、マーク・ザッカーバーグは、この本を課題書に選んだのか?」そう自問しながら、読み進めていった。
そのとき、「そうか、権力が終焉する世界において、ビジネスモデルの根拠をどこに求めたらいいか? そのヒントがこの本にはある」と思いついたのだ。たとえば、以下のような箇所がある。
「科学的なイノベーションにおける権力の衰退もまた、格好のテーマと言ってよい。国営事業よりもグローバルになっており、国境を越えた協力が進み、データと知識をこれまで以上に共有するという規範が現れつつある。」(出典)
『権力の終焉』では、国家権力だけではなく、メディアや教会など、様々な権力の話を取り上げている。その中で、科学の話に触れたこの文章を読んだ時に、私は、「あっ!」と小さく声をあげた。国営事業者など権力を持つ組織ではなく、「データと知識をこれまで以上に共有するのは、誰なのか?」と思ったとき、答えは明白だった。それは、個人である。個人以外には、プレーヤーがいないのだ。
つまり、リゾーム化する社会、あるいは、IoT(Internet of Things)、IoM(Internet of Money)、そして、IoH(Internet of Human)といわれる社会、さらには、「Society5.0」と言ってもいい。そのような社会で、権力が徐々に終焉していくとき、データや知識を共有して力(権力)を相対的に把持していくのは、誰なのか? それは個人以外にはいないのだ。
「個人に根ざした、個人を基軸にしたビジネスモデルを作るしかない」
私は、それが、まるで、マーク・ザッカーバーグからのメッセージのように感じた。そして、秋山隆平氏にもらった「そのときどうするか?」という宿題に対する、マーク・ザッカーバーグからの答えだった。
その後、2017年に、Morgan Beller(現、Co-creator of Libra & Head of Strategy at Calibra)がFacebookに入社して、ブロックチェーンや Cryptocurrency に関する仕事をしている、とシリコンバレーの知人から聞き、さらに、元PayPal社長のDavid Marcus(現、Co-creator of Libra, leading Calibra)がそのバックにいることを知った。その時以来、私は、Facebookがいつ暗号通貨をローンチするかと楽しみで仕方なかった。
暗号通貨は、個人に根ざしたサービスになる。このことに、説明はいらないだろう。

Facebookが主導するデジタル通貨「Libra(以下、リブラ)」は、2020年前半の運用開始を目指している。そのニュースが流れて以来、マネーロンダリングなどのリスクを考えると、個人情報漏洩などで信頼を失っているFacebookという会社がしっかりと管理できるのか? そういう批判的な声があがった。各国の政府や中央銀行関係者なども懸念を表明した。
だが、社会的な反対は想定内だろう。マーク・ザッカーバーグもシェリル・サンドバーグも、米国政府関係者と打ち合わせなどをして、準備を進めてきたはずだ。なぜなら、シェリル・サンドバーグは、米国財務省にいた人間で、財務長官の下で働いていた経験を持つ。
そして、中国の存在が、彼らの味方になる。これも、シナリオ通りだと思う。暗号通貨で中国に覇権を握られて、経済競争・貿易戦争などに不利になることは、米国としては絶対に、阻止しなければならない。
つまり、人民元を除外して、リブラが連動する通貨を米ドル中心に構成する。この構成比率のマジョリティを米ドルが握る。その状態で、世界中で最も利用される暗号通貨の地位をリブラが確立する。そうすれば、米ドルの覇権は揺るがない。ユーロ、英ポンド、日本円なども連動通貨にして、恩恵を各国に付与すれば文句はでない。特に、中国を排除して自国に恩恵があれば、関係各国は「文句はないはずだ」となる。
そうなると、人民元はリブラへの対抗手段を講じてくるはずだ。中国も暗号通貨を発行してくる。しかしだ、Facebookユーザーは、20億人〜30億人とも言われ、さらに、各国の通貨と連動していれば、国際決済で優位になる。つまり、中国の決済業界の海外展開は阻むことができる。20億人〜30億人を巻き込んで、基軸デジタル通貨のポジショニングを成功させれば、中国の人口がいくら多くても、太刀打ちできない。