乗車前から降車後まで、タクシー体験を向上させるために
MarkeZine編集部(以下、MZ):タクシー配車アプリ「JapanTaxi」が、今年(2019年)8月に800万ダウンロードを記録したそうですね。私も1ユーザーとしてこの「JapanTaxi」アプリを使っていますが、本当に便利で役立っています。御社はユーザーのタクシー体験向上を目指して事業を展開されていますが、改めて、どのような理念を目指してビジネスをされているのか、概要を教えてください。
坪井:当社は「移動で人を幸せに。」というミッションを掲げ、この実現を目指して事業を営んでいる会社です。スタートは日本交通の関連会社として、乗務員の給与計算センター事業を営んでいましたが、タクシー会社の業務支援システムの開発や、ドライブレコーダーなどのタクシー車両用ハードウェア開発などを進めました。現在はタクシーを中心に、「いかにユーザーに喜んでもらえる体験を提供するか」を軸に、アプリにとどまらない観点でサービスを提供しています。たとえば車内後部座席に搭載している「JapanTaxiタブレット」を使った広告配信や、キャッシュレス決済「JapanTaxi Wallet」などを通じ、タクシー乗車前から乗車中、降車後に至るまで、幸せな移動体験を提供するため、ハード・ソフトを合わせてサービス向上に取り組んでいます。
MZ:坪井さんと日浅さんは配車UX事業部に所属しているんですね(2019年9月取材時点)。それぞれのミッションと業務内容はどのようなものですか?
坪井:「JapanTaxi」アプリのディレクターとして、各種開発案件・グロース施策の企画からディレクション・効果検証までを担当するチームのリーダーを務めています。業務内容は、マーケティング部など様々な部門から寄せられる案件を整理し、日浅のいるアプリ開発のエンジニアチームと連携しながら、実際に機能を開発し、効果検証・リリースするまでを統括する役目になります。また、アプリ全体のビジネス的なKPIは、社内横断でしっかり見ていますが、私たちのチームもアクティブ率などをチェックし、日々業務を進めています。
日浅:私はエンジニアとして、会社共通のミッションにともなったKPIを背負い、それを達成するためにどのような機能をリリースするかを定め、開発を進める立場になります。こうした事業ゴールに沿ったKPIは、ビジネス部門が負うケースが多いと思いますが、エンジニア視点で「こういう機能が必要なのでは」という提案を行い、案件に落とし込むまでを担当しています。
とはいえ、エンジニアの視点だけで物事を判断しているわけではありません。先ほど坪井から話があったように、当社は移動体験、タクシー体験というカスタマーエクスペリエンスの向上を目指しています。この視点をベースに、エンジニアやマーケ、UXデザイナーも含めて案件化するかどうかを判断しています。
かゆいところに手が届く、最適なコミュニケーションを実現したい
MZ:「JapanTaxi」アプリ自体は2011年からリリースしていたそうで、これまでずっとアプリ内配信ツールを使ってきたと思います。そんななか、2019年2月に「KARTE for App」、「KARTE Datahub」を導入されましたが、どのような経緯があったのでしょうか。
坪井:以前からプッシュ配信ツールは利用していて、確かに必要最低限なプッシュ通知やダイアログ表示を行うだけなら十分でした。ですが、やはりかゆいところに手が届かず、物足りないという実感があったのです。
タクシーを使う理由は人によって様々です。ユーザーにはビジネスマンもいれば、小さなお子さんを抱えた方もいるし、体調不良で病院に行く人もいる。ですが以前のツールだと、こういう様々なユーザー、多様なニーズに応じたきめ細やかなコミュニケーションができませんでした。具体的にいえば、セグメント設定が容易かつ迅速にできなかったのです。
また、以前のツールでは、施策が単発で切れてしまって、一連のストーリーに沿ったシナリオ展開ができないこともネックでした。今は改善されているかもしれませんが、たとえば「このエリアで過去1年間以内にアプリを開いた人」に向けたメッセージを送り、「メッセージに反応した人に向けて、こういう接客を行う」といったように、施策同士を結ぶことができなかったんです。
そして施策後の効果検証でも、当社の社内データベースと配信ツールの連携ができなかったので、配信ツールからCSVでファイルをダウンロードし、社内のユーザーIDと紐づけて分析するなど、手間がかかることも課題でした。
JapanTaxiがKARTEのリアルタイム性にこだわった理由
MZ:そうした課題を解決するため、KARTEを選択したんですね。導入の決め手を教えてください。
坪井:いくつか候補を検討したのですが、やはりアプリに特化して最適なコミュニケーションを実現できる点が大きかったです。他のツールだと、きめ細やかな接客実現はできたとしても、やはりWebベースでプロダクトが設計されており、アプリに特化した機能が豊富なツールはKARTE for Appしかありませんでした。目指していたのは、自社データベースと、配信ツールのログ実績を結びつけ、状況やニーズに合ったコミュニケーションをリアルタイムに行うことです。KARTE Datahubを使えば、こうしたことが実現できます。
従来使っていたツールとの費用比較についても、KARTEの方が機能バランスが良く、たとえ従来より値上がりがあっても、業務工数が大きく削減できたり、施策幅が広がったりなどの成果があると考えました。社内でコンセンサスを得るために、KARTE開発元であるプレイドさんからも全面的に協力をいただき、具体的な利用シナリオを交えながら説明したことも、導入を後押ししたと思います。
MZ:リアルタイム性にこだわった理由は何でしょうか。
坪井:タクシーアプリは、ニュースやゲームのように毎日開く性質のアプリではないんです。「タクシーに乗りたい」という瞬間で開くアプリなので、たとえば雨が降っているとか、暑いから乗るのか、急いでいるから乗るのかなど、アプリにとどまらない外的な要素も加味して、適切な接客をしないと噛み合わないところが出てきます。そのため、リアルタイム性は重視しました。
坪井:アプリを開いた時の場所や状況と合わせ、KARTEでイベントをリアルタイムに収集・解析しているので、ユーザーの“今”に合わせたコミュニケーションを取りやすいということが優位性として挙げられます。
プッシュ配信などの各種施策を打つ際でも、KARTE Datahubでクエリを実行し、リアルタイムに条件に合致するユーザーを抽出して配信しています。また定期的な配信施策においても、弊社では1日1回データ連携を行い、なるべくタイムラグがない状態での接客も実現できています。
日浅:タクシーは、そもそもずっと乗るものではありません。たとえば1週間に1回、2週間に1回など、必要になった時に乗るものです。リアルタイム性にこだわった理由はそこにあります。
KARTEを活用し、エンジニアの工数をかけずにアプリ機能を向上
MZ:KARTEを利用してどのようにコミュニケーションを行っているのか、具体的なエピソードを教えてください。
坪井:リアルタイム性でいえば、ユーザーの現在地に応じたエリア別プロモーションを合わせた接客があります。たとえば、あるエリア内で訴求したい機能があった時、そのエリアにいるユーザーにプッシュ通知を送ると共に、タクシーの呼びやすさ・呼びにくさなど、エリアごとにある状況や仕様に合わせた接客を行っています。
またユニークな点でいえば、当社が主催したリアルイベント「JapanTaxi Lounge」と連動し、近くにいるユーザーにイベント告知ダイアログを表示したことがありました。これはマーケティング部と連動して進めた施策です。エリア内の地図上のイベント開催地点にマーカーを立て、タップするとダイアログが表示される仕組みを実装しました。エンジニアチームには、前提となるイベントの組み込みを実装してもらったのですが、あとはKARTEの管理画面上で設定できます。
日浅:通常、こうした機能をアプリに組み込むにはエンジニアの工数がかかりますが、KARTEを利用すると、ダイアログでどのような内容を訴求するのはもちろん、「設定値配信」機能を使うことで、地図上のどこにピンを立てるかもマーケティングチームだけで設定することが可能になり、継続的に運用する仕組みを作ることができました。ユーザーは、自分がアプリを開いた場所でどんなイベントが開催されているかをリアルタイムに知ることができます。
先ほど坪井が説明したように、やりたいこと1つひとつにすべてエンジニアの工数が加わると、コストが上がってしまいますが、このような施策はKARTEで運用できる仕組みを作ることで、低コストかつ高速にPDCAを回すことができます。その分エンジニアは、アプリのコアの体験を作る開発にリソースを割くことができます。
エンジニアからCSまで、全社横断でKARTEが浸透した理由
MZ:スピード感速く、やりたいことが実現できるんですね。今回のKARTEは配車UX事業部だけでなく、全社的に活用の幅が広がっているとのことですが、その使いやすさがポイントなのでしょうか。
坪井:もともと会社として、新しいものを積極的に取り入れようという風土が醸成されているという背景はあります。当初、私の構想では「アプリマーケの施策をスムーズに実現したい」ということがメインでしたが、その当時リテンション率向上が全社的なテーマとなり、「せっかくだから、KARTEも組み合わせて施策をやってみよう」ということになりました。もちろんそれだけでなく、アプリ自体の改善も行いながら、ポップアップやプッシュを出し始め、マーケティングだけでなく、UXデザイナーやカスタマーサポートなど、いろんな人たちがアイデアを出して改善施策を考えていったのです。これが追い風となりました。
たとえば、「JapanTaxi」アプリは、前回利用時の設定を引き継ぐ仕様になっているので、それでユーザーが困惑するケースもあるんです。一例を挙げると、オンライン決済未対応エリアで注文するときには、現金決済がデフォルトで選択されますが、次の注文時に決済可能なエリアで注文しようとしても、前回の現金決済の情報を引き継いだままユーザーが気づかずに注文してしまうことがあるんです。カスタマーサポートがこうした意見を受けたので、KARTEを使って、オンライン決済不可になっているユーザーに対して、注意を促すポップアップを表示するようにしました。これにより、オンライン決済利用注文数のリフトアップに加え、大幅な問い合せ減少にもつながったんです。
これまで顧客体験を毀損していたと考えられる課題を、KARTEを使えばある程度は解消できるということを実感しました。そのほか、クーポンの有効期限が近いユーザーを抽出し、「もうすぐ期限です」と告知したのも効果的でした。
また、日浅のように、ツールの仕様を理解して活用アイデアを持つエンジニアがいたこと、私の上司も前職でKARTEを使っていたことなども大きなポイントだったと思います。
MZ:ありがとうございます。日浅さん、エンジニア視点で見たKARTEの良さを教えてください。
日浅:設定値配信の時もそうでしたが、サポートが迅速で助かります。サポートページ自体、とてもわかりやすく整っていますし、こちらから要望を伝えるとすぐに対応していただけるところもポイントでした。KARTEはエンジニアフレンドリーなマーケティングツールなので、事業側のアイデアを実現するスピーディな実装と同時に、エンジニアの工数削減も両立していくことができます。
将来的には定性データと定量データの連携も視野に
MZ:今後の展開を教えてください。
坪井:ロイヤリティが高いヘビーユーザーの方への施策、コミュニケーションに取り組んでいきたいと思います。現在もインタビュー・アンケートを通じた機能改善も取り組んでいますが、このアンケートはいまのところ調査会社に協力していただいています。将来的にはKARTEでロイヤルユーザーを抽出し、配信してその結果を自社データベースに連携し、個々のユーザーに適したコミュニケーションを実現したいと考えています。
もう1つは、外部ソースとの連携です。たとえば天候データと連携することで、「もうすぐ雨が降りそうだから、予約はいかがですか」など、将来のピークに向けた提案ができるようになります。電車の遅延情報も使えそうですね。
KARTEもそうですが、当社のアプリも、顧客体験を第一に考え、外部の優れたソリューションやデータソースと連携してより良いソリューションを提供したいと考えています。そういう理念の下で、アプリを進化させていきたいですね。
日浅:エンジニアとしては、KARTEにはかなり満足しています。私たちができることは、より汎用的なテンプレートを作って、やりたいことを事業部でできるような環境を整備すること。それがより良い顧客体験につながればいいなと思います。