パナソニックの組織変革に欠かせない社内複業制度とは
100年前は今でいう“スタートアップ系メーカー”だったパナソニックだが、創業者である松下幸之助氏は周囲から事業内容を問われた際に「松下電器は人をつくるところです。あわせて電気製品もつくっています」と答えたという。
「事業の根幹は人であるという強い信念が表れた言葉だと思います。ものをつくる前にまず人をつくるというDNAは今も色濃く残っています」と大畑氏は語る。

(複)デジタルマーケティング推進室 大畑 雅哉氏
創業当初から受け継がれる「人づくり」の精神を体現するため、パナソニックでは働きがい創出に向けた取り組みが全社マターで展開されている。中でも目玉となる取り組みが社内複業制度だ。冠されているのがサブを意味する副ではなくマルチの複である点からもわかる通り、所属部門に身を置きながら社内の新しい業務を経験できる。つまり、社内において本業と複業のパラレルキャリアが実現可能な制度となっているのだ。
いわゆる兼任や兼務と何が違うのか。兼任や兼務が会社起点で設定された業務推進を目的とし、社命として任命されるものである一方、社内複業はあくまで起点が本人であり、目的が自己成長に置かれている。個人が手を挙げれば、本業とまったく異なる領域にもチャレンジできる点が社内複業制度の特徴である。

異なるバックグラウンドで全社デジマを支援
この社内複業制度を通して立ち上がったのが、大畑氏の所属する「D-Locators HUB(以下、DLH)」という新たな複業チームだ。「多種・多様・多数のナレッジ、スキル、課題を掛け合わせて課題の抽出や解決を図る」というテーマのもとメンバーの募集が行われ、大畑氏も手を挙げた。
現在、DLHにはデジタルマーケティング推進室の専任メンバー7名に加え、社内複業制度を利用した12名の社員が参加している。大畑氏のようにデジタルマーケティング領域出身のメンバーもいれば、ロボットエンジニアや換気設計のエンジニアなど、異なるバックグラウンドを持つメンバーも参加している。
未経験者が参加するDLHの強みを説明するにあたり、大畑氏はアメリカの社会学者マーク・グラノヴェッター氏の論文を引用した。
「グラノヴェッター氏は『弱い紐帯(ちゅうたい)の強み』という仮説を通して、同じ価値観や環境に属するよく知っている強いつながりを持つ人たちより、ちょっとした知り合いなど、弱いつながりを持つ人たちのほうが新しく価値の高い情報をもたらす可能性が高いと主張しています。DLHの中にもデジタルマーケティングという狭いコミュニティに属する私のような人間はいますが、様々な価値観を持つ人と結びつくことで新たな価値を生む強さがあると思います」
東京、大阪、名古屋など全国にメンバーが点在しているDLHでは、各自がセルフマネジメントでデジタルマーケティング業務を実施している。メンバー間のコミュニケーションにはメールを一切用いず、Microsoft TeamsやSkype、Zoomなどのコラボレーションツールを活用している。月に1度、Monthly Gigと呼ばれる場を設け、大阪本社のコラボレーションスペースに全員が集まって議論を行っている。