チャネルとタイミングを意識し、一貫したメッセージを
――はじめにご担当業務について教えてください。
白井:現在はカスタマーサクセス部門にて、「Marketo Engage」をお使いのお客様の課題整理や、マーケティングを加速させるためののご提案をしています。それ以前はアライアンス担当として、「Marketo Engage」とパートナー様のサービス、ソリューションを活用したマーケティングエコシステムの構築を行っていました。
――ありがとうございます。本日は、デジタル×アナログを融合した見込み顧客との接点作り、中でもDMとMAツールとの連携をテーマにお話をうかがいます。はじめに白井さんは、“生活者に求められるコミュニケーション”とは、どのようなものだと考えていますか。
白井:私たちが日本で事業を始めてからずっとお伝えしてきていることですが、お客様の好むチャネル、好むタイミングで一貫した適切なメッセージをお届けすることだと思います。
今はWebサイトやメール、DM、対面での営業など、様々なチャネルが利用可能になったからこそ、企業はお客様のことをきちんと知り、何を伝えたいのかをより強く意識し、適切な組み合わせによって発信していく必要が生じています。
――業種・業態を問わず、顧客体験に一貫性をもたせることは重要ですね。
白井:はい。テクノロジーを活かしてチャネルの多様化にチャレンジしてみようという段階から、一貫した顧客体験を提供して成果を出していこうという段階に移行してきたと感じます。
カスタマージャーニーに代わる“企業目線”のシナリオ設計
――デジタル施策とアナログ施策の組み合わせについて、取り組みのポイントはありますか。
白井:個別の施策について考える前に、全体のシナリオを明確にすることが重要です。しかし、エンドユーザーの視点で作成する一般的なカスタマージャーニーは、ビジネスへの落とし込みが難しいと考えています。なぜかというと、顧客との接点や感情の変化が主となっており、これをビジネスに落とし込んでいくのは非常に大変だからです。そこでお勧めしているのが、企業の視点で購買プロセスを定め、シナリオを作っていくことです。
――なるほど。詳しく教えていただけますか。
白井:まずは、自社の商品、サービスの購買プロセスを作成します。仮に買っていただく、契約していただく「受注」をゴールとした場合、そこに到達するための各ステージを設定し、それぞれについて、“どのような条件を満たしたら次の検討ステージに移行したとみなすのか”を定義していくのです。
もちろん「受注」がゴールではなく、顧客となった後の「関係維持」、そこからの「クロスセル/アップセル」もありますので、自社の商品、サービスに合わせて作成します。
白井:その上で、見込み顧客に次の検討ステージに遷移いただくためのキャンペーン施策アイデアを出します。施策アイデアのポイントは、「どんなコンテンツを」「どの方法(チャネル)で」届けるかを考えることです。
マーケターの重要な役割は、見込み顧客が滞在しているステージを、右へ右へと動かし、ゴールである「受注」に貢献していくことです。このようなシナリオをきちんと整理することで、キャンペーン施策の目的やゴールはより精緻で明確となり、成功、失敗の判断もしやすくなります。
――シナリオ設計を通じて、やるべきことが整理されるのですね。
白井:はい、このシナリオ設計というのは、経営計画などの“戦略”と、個別具体的な“施策”のちょうど中間、“戦術”に該当します。戦略からいきなり施策を導いてしまう方も少なくないのですが、この部分を疎かにせず、しっかり設計することで、施策が全体プロセスのどの部分に位置するのか把握でき、PDCAをきちんと回すことができるようになります。
施策の実施前に定めるべき、たった一つのこと
――では、個々の施策を策定・実行するときに気をつけるべきことはありますか。
白井:施策を実行する前に、あらかじめ“成功の条件”を定めておくと良いでしょう。
たとえばDMを始めてみたいという場合にも、その目的がメールだけでは情報が届かない層に情報を届けるためなのか、それとも来店、来場を促すものなのかによって、内容はもちろん、打ち方も変わってきますよね。前者であればユニークURLを発行してDMに印刷し、クリック率を測るなどの仕掛けを入れて「何人の見込み客がWebサイトにアクセスしてくれたのか」、後者であれば「何人の見込み客が来店、来場してくれたのか」など、測定可能な到達点を定めておきましょう。
――施策によっては売り上げに直結しないものもあり、経営層に説明するのが難しいという声も聞かれるのですが……。
白井:経営層はプロセスの全体を見ているので、マーケターは個別の施策が経営目標に到達するためのプロセスのどの部分に位置づくのか、ストーリーを組んで説明する必要があります。その際に先ほど紹介したプロセスが役に立ちますし、成功の条件を交えながら数字を入れてお話しすることによって、「やってみなさい」と後押ししてもらうことができるはずです。
MAツールの担当者というのは、経営者の視点を学ぶことができる立場でもあると個人的には思います。一つの施策に閉じずに、シナリオ全体を見渡す意識をもつようにすると、企業の収益向上を加速するレベニュードライバーとして他部門の巻き込み方も変わってくるはずです。
DMで態度変容への手厚いフォローを実現
――少し視点を変えて、MAツールとDMとの連携についておうかがいします。白井さんは各企業の取り組みについて、現在はどのようなフェーズであると見ていますか。
白井:ここ1、2年で、MAツールとの連携に挑戦するお客様は増えています。というのも、マス向けの認知拡大・訴求だけでなく、より手厚く態度変容を促したい、という場面でDMを活用するケースが多くなっているのです。
――たとえばどのようなシーンなのでしょうか。
白井:有償化サービスにアップグレードしていただく、プレミアム会員になっていただく、または口座を開設していただくなど、先ほどお伝えした「ステージ」を動かしていくために、デジタルだけでは届かない部分にDMを組み合わせるかたちですね。
実証実験でも結果が出ていましたが(参考記事)、特にデジタル中心の施策が多い現在では、手元に残る嬉しさや「わざわざDMを送ってくれた」という特別感が大きいのだと思います。
――ここぞ、というときにインパクトを残すような使い方が、これからも増えていきそうですね。
白井:そうですね。だからこそ、タイミングやメッセージには十分注意を払う必要があります。 既に購入した商品、サービスの案内を再度送ってしまうような場合、コストをかけて制作したDMがそのままゴミ箱に行ってしまいますし、届いた本人以外の周囲の方にマイナスの印象を与えてしまいかねません。
「Marketo Engage」にもデジタル×アナログの最適なマーケティング手法を研究する「コミケト」というユーザー分科会があるのですが、設計したシナリオを基に、どの段階でDMを活用すると最も効果的なのか、という点について深い議論が行われるようになっています。
シナリオ設計は、これからも人が担っていく仕事
――最後に、MAツールを通じて顧客体験の設計・創出を支援する立場から、マーケティングコミュニケーションの今後についてお話いただけますか。
白井:まず私たち自身についてお話すると、アドビの一員となったことで、お客様に提供できる価値が一層大きくなりました。クリエイティブ、CMS、そしてアナリティクスなど、様々なツールを組み合わせることで、エンドユーザーに一貫した顧客体験を届けるお手伝いができると思います。
それから本日お話したシナリオ設計に関して、設計を支援する機能がプラットフォームに実装されていく可能性はありますが、基本設計やシナリオを精緻化させていくことに関しては、いまだ人間が行うのが有効だと思います。
シナリオ設計は奇抜なアイデアが必要なわけではなく、当たり前のことをしっかり実行していくことがなによりも重要です。「このステージの見込み顧客には、どのような情報が求められているのか」ということを本気で考えれば、とるべきアクションが見えてきます。
――DM活用の今後については、どのように考えていますか。
白井:マスに届けるビジネスモデルがなくなることはないと思いますが、「手元に残る」というDMならではの特徴が活かされる場面も増えていくでしょう。最新のテクノロジーを活用して、適切な見込み顧客の「ここぞ」というタイミングを見極めることで、DMが特別なメッセージを届ける重要なマーケティングチャネルとして存在感を高めていくと思います。
――本日はありがとうございました。
各社のDM自動印刷ソリューション一覧
DM自動印刷機能のあるMAツール
・フロムスクラッチ「b→dash」
・シャノン「SHANON MARKETING PLATFORM DM Connect Plus」
・セールスフォース・ドットコム「Salesforce」
・アドビ システムズ「Marketo Engage」など
MAツール連携ソリューション
・大日本印刷「DNPパーソナライズドオファーサービス」
・凸版印刷「DM自動発送サービス」
・福島印刷「バリアブルDM連携ソリューション」
・オプロ「AppsDM」
・電通テック「Direct→One」
・ファインドスター「Re;p(リップ)」
・JPメディアダイレクト「DM Connect」
・goof「Print of things」など
※2019年11月、日本郵便 デジタル×アナログ振興プロジェクト調べ
オムニチャネル・DM活用の事例をアーカイブサイトにて公開中! サイト閲覧はこちらから!