アイデンティティを定義・固定化しないZ世代、多様な価値観が当たり前に
X世代やミレニアル世代と比較したときZ世代はどのような特徴を持っているのか。2018年11月にマッキンゼーが発表した調査レポートは、この疑問について明快な視点を与えてくれる。この調査はブラジルで実施されたものだが、分析から浮かび上がった各世代の特徴は、他の国に当てはめても違和感のないものとなっている。
各世代について、生まれ育った時代背景、行動特性、消費の特徴は以下のように説明されている。まずX世代(1960〜79年生まれ)。政治的変化や資本主義の台頭が顕著だった時代。これによって志向・行動特性は、物質主義的、競争的、個人主義的なものになり、消費はステータス、ブランド、ラグジュアリーがキーワードとなった。
ミレニアル世代が生まれ育った時代を特徴づけるのは、グローバリゼーション、経済的安定、インターネット普及。このような時代背景によって、ミレニアル世代には、グローバリストやセルフ志向といった行動特性・志向が強く見られるようになったという。消費に関するキーワードは、体験、フェスティバル・旅行、フラッグシップだ。

一方、Z世代が生まれ育ったのは、モビリティの高度化、マルチリアリティ、ソーシャルネットワークが普及した時代。物心が付く頃には、デジタルデバイスやソーシャルメディアに囲まれており、「デジタルネイティブ」と呼ばれる所以となっている。こうした文脈で育ったZ世代の行動特性・志向は、未定義のアイデンティティ、Communaholic、ダイアログ志向、現出主義といった言葉で表現される。消費の特徴は、ユニークネス、アンリミテッド、エシカルとなっている。
Z世代の行動特性・志向には、見慣れない言葉が並んでいるが、どういう意味なのだろうか。いくつかその詳細を見てみたい。
「未定義のアイデンティティ」とは、Z世代にとってアイデンティティは固定的なものではなく、流動的なものになっていることを指している。このことはジェンダーに対する見方・考え方に如実に表れている。
マッキンゼーが2017年ブラジルで実施した意識調査では、団塊・X世代、ミレニアル世代、Z世代に、同性婚の合法化に賛成するかどうかを聞いたところ、団塊・X世代は36%が賛成、ミレニアル世代は45%が賛成と回答。一方、Z世代はこれらを上回る53%が賛成と答えたのだ。また、同性カップルによる養子受け入れに関しても、団塊・X世代が44%、ミレニアル世代が51%だったのに対し、Z世代は60%が賛成と回答している。
アイデンティティ形成で大きな影響を及ぼすジェンダー。Z世代の多くは身体的な特徴などでジェンダーを固定せず、それを流動的なものとして捉え、その変化によってアイデンティティも流動的に変わっていくと考えているようだ。Z世代のジェンダー観は「ジェンダー・フルイディティー」という言葉で説明されることもあるが、未定義のアイデンティティと似たようなコンセプトといえる。
この特徴は、Z世代の支持を得たいブランドにとって無視できないものになるだろう。伝統的な「男らしさ」や「女らしさ」といった固定的なイメージを強く押し出してしまうと、Z世代の反感を買うことにつながりかねないからだ。
前出のマッキンゼーの意識調査では、アンチ同性愛を彷彿とさせるキャンペーンを実施したり、そのようなイメージがあったりするブランドに対しては、76%のZ世代が不買だけでなく、その事実を拡散すると回答。また、この割合は、人種差別の場合には79%、男尊女卑では81%に上る。人種やジェンダー、アイデンティティの流動性を受け入れないブランドは、容赦ないバックラッシュに直面することになる。
未定義のアイデンティティの次に登場した「Communaholic」とはどのような特徴なのか。
これはコミュニケーションを通じて多様なスタイルや価値観に触れ、それらを快く受け入れる特性のことを指している。ソーシャルネットワークを通じて、若いうちから多様な価値観に触れながら育ったZ世代は、未定義のアイデンティティという特性も相まって、他の世代に比べ様々なコミュニティに属する傾向が強い。多様なコミュニティに属し、多様な価値観を吸収、それらが流動的なアイデンティティを生み出す要因になっているようだ。ちなみにZ世代にとってのコミュニティとは、経済力や学歴によって形成されるものではなく、大義や関心ごとによって形成されるものだという。
大義のもとに国境を越えたコミュニティを形成するZ世代
大義や関心ごとによって形成されるというZ世代のコミュニティ。言語的な壁がない場合、たとえば北米、オセアニア、欧州を含む英語圏では、そのようなコミュニティが国境を越えて一気に広がることも珍しくない。
アパレルブランドが、アンチ同性愛や人種差別、男尊女卑を肯定するような発言をしてしまった場合、そのブランドに対する不買運動がまたたく間に世界中に広がってしまうことも考えられる。特に、ジェンダーや環境など社会的に関心が高い問題であればあるほど、その影響は大きくなることが想定される。
世界各地で今大きなうねりとなっている「環境・学校ストライキ」の動向を見ると、Z世代の影響力が無視できないものであることが実感できるだろう。
「環境・学校ストライキ」とは、スウェーデンの学生環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(16歳)が2018年8月に始めた活動。温室効果ガスの削減など気候変動対策が不十分であるとし、政府や国際機関がこの問題に本気で取り組むように促すものだ。学校に行かないという方法で意見を主張したことから、環境・学校ストライキと呼ばれるようになった。
2019年1月ダボス会議で講演したことから世界的に注目を集めるようになり、それにともない環境・学校ストライキの規模も拡大。2019年3月時点では、米国、欧州、オーストラリア、インドなど100ヵ国2,000都市以上で環境・学校ストライキが実施され、150万人以上の学生が参加したと言われている。

Z世代であるトゥーンベリさんが始め、これほど大規模になった「環境・学校ストライキ」は、同世代であるZ世代だけでなく、ミレニアル世代やX世代にも影響を及ぼしており、いくつかの産業では消費パターンを変化させるまでに至っている。
トゥーンベリさんの地元スウェーデンでは、飛行機の利用を控え電車を利用する人が増えているという。飛行機の二酸化炭素排出量に注目が集まり、トゥーンベリさんも飛行機を利用しないと発言したことなどが影響したといわれている。スウェーデン空港運営会社Swedaviaによると、国内線の旅客数は2019年4月に前年同月比で15%も下がったという。またスウェーデン語で「フライトは恥」という意味の「flygskam」という言葉がバズワードになっているとも報じられている。これらの事実から経済・社会的なインパクトの大きさを垣間見ることができる。
社会、環境、倫理問題に関して敏感であり、ソーシャルメディアの活用にも長けるZ世代。マッキンゼーは、Z世代を「TrueGeneration(真実を求める世代)」であるとも説明している。同じ問題意識のもと、国境を越え短期間で世界的なトレンドを生み出すという点では、X世代やミレニアル世代を大きく凌駕する世代であると言えるだろう。