Amazonエフェクトの本質
本来の顧客起点のサービスは、日本でも昔から存在していた。たとえば三越の前身である「越後屋」は、取引先の勝手口に訪問する「外商」がサービス手法の中心だった。自宅に伺うことを許可され(=オプトイン)、そろそろ何が必要になりそうか(=ファーストパーティ・データ)を顧客の同意のもと聞き出し、受注してお届けする(=リアクション/re-action)というビジネスモデルである。ここには単なるモノの売買だけでなく、奉仕性もあり、ファーストパーティ・データを預けられる信用があってのコンシェルジュ・サービスである。
たとえばAmazonはこのモデルを、テクノロジーで具現化している。Amazonは世界中の人の言語と嗜好に対応した個人プラットフォームを作り、「受け身」で「依頼を待つ」というスタンスに「揺り戻し」した。その意味でAmazonは、この「原点」に気づいて商流を回帰させようとしている中の1社に過ぎない。現在沸き起こっている「エフェクト」の本質は、「顧客の御用を伺える」信頼関係が基準であり、本来の顧客商売の原点である。
「リアル・リテール」の行く末
Amazonよりも、より個に特化し、無数に生まれているのがDNVB(Digitally Native Vertical Brand)だ。Unileverが買収した「Dollar Shave Club」やWalmartが買収した「BONOBOS」に代表されるDNVB事業は、顧客からの根強い信頼のもと、熱狂的なファンを保持する。
冒頭で述べた「現在のリアル店舗を保持するモデルの流通企業の倒産や、それらの「棚」を土俵としたCPG企業(商品)の売れ行きが伸び悩む状況」は、Amazonがエフェクトさせたことが要因とは言えない。むしろ「店ではなく顧客自身を起点にした」これらのDNVB型ビジネスがテクノロジーを土台に大量に広まり、人々の「自分起点の期待値」が上がったことが大きい。個人への回帰はGDPRが警鐘する動きと一致する。
生活者は、「私は私。私はココ。私の指示はコレ。コレに従いなさい」という自分たち主導のニーズをテクノロジーが満たす、「One to Oneサービス」「自分の拠点中心」の利便性に気づき始めた。店舗はまるで「参勤交代」のような労力を生活者に強いることを前提とするので、存在するならばそれに見合った「特上の価値」が求められる。
現在のリアル店舗がマニュアルでより丁寧な対応をする程度の付け焼き刃ではなく、オンラインでつながる顧客がわざわざ来店する価値に比重が移る流れがきている。流行りの「ポップアップ・ストア」は、必ずオンライン上でのつながりを持つことが原則だ。旧来の偶然の来店トラフィックでも存在価値がある形態は、物流コストよりも来店のほうが安くなる激安品のサービスという位置づけにシフトする。
巨大な経済インパクト
見逃しがちなのは、「流通産業+CPG=製造業」の経済インパクトは、桁外れに大きいことだ。単体ブランドを越えて、すべてのCPG産業と生活者の消費支出の市場は、米国ではGDPの約7割を占め、日本でも5割を超える巨大産業だ※1。当然隣接する「ペイメント」=金融トランザクションを包括する市場の動きにつながる。この巨大な市場における本質的かつ巨大なインパクトを予想できるか。現在の日本市場は米国市場のような「痛み」を感じ得ず、打ち手が想像できていない。