消費者とブランドの結びつきを、広告で強くできるのか
冒頭に述べたように近年の広告はむずかしい状況にありますが、そんな中でもFacebookやTwitterなどの投稿の間に挟まって表示されるインフィード型のネイティブ広告のように、ある程度の効果を上げているものもあります。こうした広告は、大量にバラまかれるマス広告的な発想のデジタル広告よりは、それほど忌諱されず、受け手の態度変容に結びつきやすいとも言われます。
上智大学の杉谷陽子教授は「ブランドへの愛着と購買意図: 準拠集団におけるブランド採用の効果」(PDF)で、「消費者とブランドのつながり」を広告によって高めることができるかを研究しました。この研究では、あるブランドについて、それが「(自分が)所属しているグループや、憧れているグループでよく使われているブランドである」という情報が広告によって与えられると、そのブランドと消費者との結びつきが強まる、ということが実験によって明らかになりました。自分が所属している集団や、憧れている集団のことを「準拠集団」と呼びます。つまりこの研究では、準拠集団をうまく用いたメッセージを送ることによって、広告は有効にブランドと消費者とのきずなを強めることができることを示したのです。

広告効果が高い物語広告の要素と影響
突然消費者の生活に割り込んで来て、勝手に製品やサービスの宣伝を始める広告が毛嫌いされる中で、物語型の広告効果が高いことがしばしば指摘されています。中京大学の津村将章准教授は、物語広告における有用なクリエイティブ要素: 学際的な視点から」(PDF)で、広告効果が高い物語とはどのようなものなのかについて、文学、物語論、創作論、物語広告研究、心理学など、様々な研究分野の知見を総動員して、学際的に考察しています。まさに物語型広告の現状のすべてをコンパクトにまとめた論文となっています。
この中で津村准教授が述べている重要なことは2つあります。
第1に、従来の物語広告研究では、物語を用いてどのような広告を作ればよいかについて一生懸命研究をしてきましたが、今後は物語広告の受け手が、物語をどのように受け取り、情報処理を行い、影響を受けたり受けなかったりするのかという点について、もっと研究する必要があるということです。つまり物語広告の中身ばかりでなく、受け手のことをもっと研究する必要があるのです。そしてそのような受け手研究の1例が、次の第2にあげる点です。
第2は、物語の受け手は物語の中で進行する(1)時間や(2)空間、(3)物語中の出来事の因果関係、(4)物語の主人公や登場人物と自分との同一性、(5)主人公や登場人物の目的や目標(意図性)、という5つの次元に沿って、物語を理解するということです。ちなみに、この考え方を示す枠組みは物語の「状況モデル」、中でも「イベントインデックス・モデル」と呼ばれています。
物語がもつ影響力や効果には、以上の5次元の他にも、物語の構成や状況モデルにおける更新、物語の主題、物語のパターン、語りの視点、時間性、繰り返しの効果、累積効果、ムードなど、様々な要素が関連します。物語広告の今後の研究では、これらについてもさらに明らかにしていく必要があります。