この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.37, No.3の巻頭言をもとに、加筆・修正したものです。
広告は嫌われ、口コミが好まれる時代に
少しでも広告臭がする情報を毛嫌いし、商業的意図のない、自分と同じような一般消費者の声を信頼する傾向がますます強まっています。大学生を見ていても、広告や広告的意図にもとづいて企業が制作したサイトばかりが表示されるGoogleよりも、他の一般消費者の素直な感情が吐露されたTwitterやInstagramを好んで使う傾向が強いようです。
TwitterやInstagramのほとんどのユーザーは、こうした他の消費者による投稿を読んでいるだけであり、稀にコメントしたりする場合を除いては、こうした投稿の発信者と特にコミュニケーションをするわけではありません。それでも消費者間でやり取りされるこうした情報は、一般に「口コミ」として分類され、その性質や影響について多くの研究が蓄積されてきました。
そんな口コミに関する最新の研究を、2つご紹介します。
サービスの失敗がネガティブな口コミを生むのか
サービス業では、顧客にいかに満足してもらうかが重要であり、顧客満足に関して従来膨大な研究が蓄積されてきました。その逆に、期待にうまく応えられなかったり、何かを失敗してしまったりした結果、顧客を怒らせてしまうことは最悪です。単なる苦情にとどまらず、激怒した客に店長が土下座を要求された、などのニュースもしばしば目にします。
このようなサービスの失敗が、顧客のどのような感情を生み、さらにそれがどのようなネガティブな口コミに結びつくのでしょうか。千葉商科大学の安藤和代教授は「サービスの失敗とネガティブなクチコミ行動−認知的評価理論に基づく包括的な検討枠組み」(PDF)で、サービスの失敗に関する研究と、ネガティブな口コミについての研究は、それぞれたくさんある一方で、両者の関係についての研究はまだ十分に行われていないと指摘しています。
少し詳しく見てみましょう。サービスの失敗については、失敗の分類、失敗に対して顧客がどのような評価をするのか、そして失敗に対して顧客がどのような感情をもつのか、といった研究が従来さかんに行われてきました。
またこれとは別に、ネガティブな口コミについても従来膨大な研究が行われてきました。たとえば、ポジティブな口コミとネガティブな口コミのどちらが実際に数が多いのか、それらの内容はどのように異なるのか、消費者はどのようなときにネガティブな口コミを発信し、どのような時に発信を思いとどまるのか、ネガティブな口コミをいつ、誰に伝えることが多いのか、といったような研究が行われてきました。
しかしこれらを結びつけた研究となると、まだあまり行われていないのです。そこで安藤教授は、サービスの失敗に直面した消費者が、これに対してどのような評価を行い、その結果として怒り・悲しみなどのどのような感情が生起し、そして最終的にその一部がどのようにネガティブな口コミの発信につながるのか、という包括的な枠組みを提示しました。そして、この枠組みに沿って今後の研究を進めることを提案しています。
多くの企業が自社に関するネガティブな口コミが広まることを極めて恐れる今日、どのようなサービスの失敗がネガティブな口コミに結びつくのかを理解し予防するために、この枠組みはとても役立つでしょう。