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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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有園が訊く!

「マーケティングの死」の本質 「サービス」が「モノ」を内包し、顧客と価値を共創する時代を理解する


デジタルマーケティングの定義とは

高広:間違いないですね。過去にグッズドミナントの考えが成立したのは、顧客のニーズが一様で、マスプロダクションやマスマーケティングでよかったからだとも言えます。でもデジタルによって、ライフスタイルや価値観、そして情報行動・購買行動が大きく変わり、多様化しました。するとそれに対応するマーケティングが必要で、本来これが“デジタルマーケティング”なはずなんです。

 デジタルなツールやプラットフォームを使うのが「デジタルマーケティング」だというのも、結局は企業目線。しかし「デジタルによって変わった顧客の行動」に対応したマーケティングこそが「デジタルマーケティング」だと定義したほうがいい。

 たとえば店頭購買がECになるというのは“買い場”が変化したことの表れですが、顧客の購買行動は単にオフラインからオンラインにデジタル化しただけなのか? ということを考えないといけないし、その上で次世代の購買プロセスを想定する必要があるでしょう。段階的には、“買い場”のオンライン化は既に普及していますが、“買う”という行動の次の変化としては、何が起きているのか。そろそろAmazonが購買履歴から推測して勝手に商品を送ってきて、顧客側は不要な商品であれば送り返すというものも出てくるかもしれない。こうなるともはや、顧客側が「自分で買う」ことすらなくなります。要らなければ返せばいいという、メールにおけるオプトアウトのような購買活動が、AIや予測技術によって可能になりつつあります。

 従来的な購買ファネルで考えると、「先ずは商品を認知してもらう」ところからスタートし、「商品を手にする」というプロセスまで設計する必要があったわけですが、将来の購買プロセスは、「認知」をしてもらう前に商品が届く、ということが起きるかもしれない。そうなると、今までのようなマーケティング・コミュニケーションは、ますます不要になる。マーケティング部署の役割が変わる、ないしは不要になる可能性は大いにあるわけです。

有園:たしかに、プラットフォーマーが相当の顧客情報を押さえている状態だから、最初のきっかけさえあればいい。……また脱線かもですが(笑)、電子政府の確立に力を入れているエストニアが実践しているのがGaaS(Government as a Service)なんですね。赤ちゃんが生まれたら名前を届け出る前にまず番号が付与され、以降ずっとそれでつながって、あらゆる「サービス」が提供されていく。この話を聞いたときも、「『サービス』って関係性なんだ」と思ったんです。

高広:「『サービス』=関係性」だからね。ただ個人情報の点でいうと、今後日本でも欧州のGDPRと同様にクッキー利用などの個人情報規制が入ると、購買ファネルの中間部分から購買までの部分でのターゲティングを主軸に事業をしているアドテクベンダーが相当厳しい状況になりますね。クッキーやIDは、特に日本ではブランディングのためではなく購買に近いユーザーを捉えるために主に使われているから。

有園:わかります。でも、しょうがないよねという気もします、なぜなら顧客体験をきちんと考えないでつくってきたビジネスモデルだから。これがいったん死滅すると、本当にUXやCXを考え直したアドテクだけが生き残るのではないか、と。

プロポーズはできる、受け入れるかは相手次第

高広:そうですね。一方で、ファネル上部に位置するブランディング型のネット広告は、また出てきて普及するんじゃないかという期待も少しはできると思います。昔、GoogleのAdSenseやAdWordsで普及し、今では死滅したとも言える「コンテンツ・ターゲティング」や「プレイスメント・ターゲティング」みたいなものが再び注目される領域になりそう。揺り戻しですね。

有園:そうすると、マスとデジタルを横断してファネル上部をプランニングする人材が、エージェンシーにはますます必要になる?

高広:なる……かもしれないし、要らないかも。というのは前段で、顧客が自らを教育するという「“Self-Educating Buyers”=自己学習する買い手」に触れましたが、同様に広告主も「“Self-Educating Advertisers”=自己学習する広告主」にどんどんなっていって、エージェンシーがかつてのように、「自分たちのほうが広告主よりも広告やマーケティング領域にとっての知見がある……」というような情報格差を武器にできなくなっているから。これはすごく重要ですね。

有園:最後にデータの活用についてうかがいたいんですが、ここまでの話のように顧客体験をベースにビジネスや組織を再構築することになると、今重視されているデータドリブンの考え方ではなく、もっと違う見方や活用の仕方が必要なのではと思うんです。

高広:それはそうですね。顧客体験の最適化という話からすると部分的にはなるけれども、データの使い方に関していうと、たとえばアルゴリズムや機械学習によるリコメンデーションというのは、アイテムベースの協調フィルタリングからユーザーベースの協調フィルタリングになっていって、お客さんの行動に合わせてリコメンドするというもののはずなんですよね。

 でも、最近話題によく出るように、リコメンデーション型のネイティブ広告などを見るととてもユーザーにあった広告を出しているとは思えないくらいひどい状況です。以前は“recomendation platform”という言葉を使っていたリコメンデーション・ウィジェット型ネイティブ広告の会社の多くは、最近は“discovery platform”という言い方をするようになってますが、これなどは「オススメする」という本来の役割が崩壊していて、広告主のニーズを重視した広告露出が増えることよって、“recomendation”とは名乗れなくなった結果の方便ではないか? という気もするぐらいです。

 なので、それらは確かに「データドリブン」なプラットフォームなのではあるけれども、何度も同じ広告を出したり、僕や有園さんにいつまで経っても「ほうれいせん」や「宿便が出る」なんて広告が出続けるのは、そもそも「データ」の活用が本来あるべき顧客体験とは結びついてないということです。

 データが単なるデータではなく、顧客体験(CX)と結びついたときにインフォメーションになり、全体としてインテリジェンスになる。そうすると、CX改善に活用し得るものになると思う。残念ながら、今はそうなっておらず、企業目線、広告主目線になっているから、特にデジタル広告は顧客目線で見ると崩壊していると言われてもしょうがない状況です。ここは変えないといけない。

有園:顧客体験を改善するためのインテリジェンスが今後ますます重要になるわけですね。一方的なマーケティングの終焉を理解し、顧客との関係性の中で成り立つ価値を見出そう、と。 

高広:そうですね。でも企業側が見つけなくてもいいのかもしれない。そもそも企業はもはや価値を“提供”することはできず、“提案”することしかできない、とも考えられるでしょう。「バリュー・プロポジション」という言葉はマーケティング界隈でよく使われますが、誤用が極めて多い。提案書やマーケティング関連の記事などでも、これを「価値提供」と訳しているのをよく見かけますが、これは大間違いです。「proposition」とは「プロポーズ」しかできないということ。相手がその申し出を受け入れてくれるかは別の話。なので、ある「価値」を「提案」して、それを相手にとっても「価値」として認めてもらえるというのは、一方的ではなくやはり相互のインタラクション=「サービス」なんですよ。だからやはり、従来的な一方的な「マーケティング」は死ぬんじゃないかな、と。

有園:その意味をよく考えて、変えるべきところを変えていかないといけないですね。大変多岐にわたるお話、楽しかったです。ありがとうございました!

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/26 20:23 https://markezine.jp/article/detail/32603

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