市場拡大のために行った、3つの取り組みとは?
瀬戸氏は続けて、実際にプレミアム価格帯の市場に参入し拡大するために行った3つの取り組みについて紹介した。

1つ目は、病院に対するアプローチ。パンパースは病産院使用率がナンバーワンで(P&G調べ、新生児用データ)であり、P&Gとしてもナンバーワンを狙っているという。ただ、病院のオムツ市場はそこまで大きくはない。
しかし、そこには病産院での使用率が高いことで母親への安心感を高め、生まれて最初にはくオムツとしてパンパースを利用してもらうという、明確な意図があった。
2つ目は、母親思いのコミュニケーション。母親の子育て周りの課題を考え、そこを支えるようなコミュニケーションを展開。「MOM'S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。」では、赤ちゃんが1歳になるまでという母親として大変だった1年をいたわるムービーを展開。特に広告配信などはしていないにも関わらず、600万回再生されるなど大きな話題となった。
3つ目はCRM。パンパースのパッケージの内側にあるポイントコードを読み込むことでポイントが貯まり、貯まったポイントをギフトと交換できる「すくすくギフトポイントプログラム」を開始した。
アプリで会員登録を行うため、購入者の購買頻度などもわかり、アンケートを実施することで詳細なデータも取れる。そして、それぞれの人にあったコミュニケーションが展開できる。
瀬戸氏は「具体的な数字は言えないが、売上のうち一定の割合が把握できるようになった」と語った。
音部氏は「このプロジェクトを経て何を学んだか」と質問すると、瀬戸氏は以下のように答えた。
「消費財の領域にデータマーケティングをどう組み込むかを学ぶことができました。消費財は最後の購買に関するデータを持っていないことが多く、広告を打ったことの効果が見えづらい。しかし、今回のようにポイントプログラムを入れたことで売上に関するデータを把握できるようになったのは非常に大きいと思います」(瀬戸氏)
ヘアケア事業、V字回復への道のりとは
続いて、岡田氏は2019年4月まで担当していたヘアケア事業の事例を紹介した。シャンプーカテゴリーでは、D2Cブランドが台頭しておりこれまでの勝ちパターンが通用しない状況になっていた。そのため、セット商品でセールを行うなど本来であれば避けたい施策を行わなければならなかった。
この緊急事態に対し、岡田氏は3つの取り組みを行った。まず行ったのは組織改革。これまでは、意思決定をするまでのステークホルダーが多く、時間がかかっていた。よりスピード感のある組織体制を整えたという。
次に行ったのは、課題解決につながるコミュニケーション。P&Gヘアケア事業のリーディングブランドのパンテーンでは、これまでは「ダメージヘアをケアする」という便益を訴求してきた。ただ、就職活動では黒染めをしてポニーテールをしなければならないなど、これまでの便益では解決できない髪型にまつわる課題は数多く存在していた。
そこでP&Gは、ターゲットである女性が日々なりたい髪型になれる環境を作ることを目指しコミュニケーションを実施。先ほどの就職活動に関しては、就活生や企業を対象に調査を行い、その結果を広告として展開。非常に多くの反響が集まった。
そして最後に行ったのは、多様性への対応。メガブランドだけではなく、様々なニーズに応えるべく、プレミアムブランドを展開して、異なるニーズに応える商品を展開した。
これらの取り組みの結果、売上・利益・市場シェア・ブランドエクイティが厳しい状況からV字回復することができたという。
この取り組みに対して、音部氏は瀬戸氏と同様に「このプロジェクトを経て何を学んだか」を聞いた。すると、岡田氏は次のように回答した。
「お客様が髪型に対して何を望んでいるのかを生活視点で捉えて、新しいコミュニケーションを考えることが重要だと気づくことができました」(岡田氏)
