この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.39, No.3の巻頭言をもとに、加筆・修正したものです。
「デジタル社会におけるブランドのあり方」を見つめ直す
今回のテーマは、「デジタル社会におけるブランドのあり方」です。以下ではこのことを考える上で重要な4組の論文をご紹介します。
1つめの論文は、ブランド構築に関する従来の議論において、ブランドを提供する企業と、そのブランドを支持する顧客の役割ばかりに着目してきたことを振り返りながら、そのブランドを熱心に支持し広めることに注力する第三者の役割について議論します。
2つめは、2本の論文から構成されます。デジタル時代の消費者に特徴的なブランド消費のあり方やブランドとの関わり方を考察した上で、そのようなデジタル社会におけるブランド戦略とはどのようなものかについて議論しています。
3つめの論文は、ブランドについての根本的な議論に立ち戻り、ブランドにおいて想像力が果たす役割について議論します。
4つめの論文は、ECサイトやアプリにおいてUX(ユーザーエクスペリエンス)がブランドに及ぼす影響を測定し、考察しています。ではこれらの論文を見ていきましょう。
ブランドを育てる顧客以外の存在
3月20日に完結した「100日後に死ぬワニ」は、最終回がアップされた直後に、背後で広告代理店が中心となって様々なビジネス上の関係者を巻き込んで人気を仕掛けていたのではないかという疑念がわき上がり、炎上してしまいました。実際には作者と読者との間で生まれた人気に、後から様々なビジネス提案が入り込んできただけだったことが作者によって釈明され、炎上はひとまず落ち着きました。
しかし「100日後に死ぬワニ」をネット上の新たなブランドとして捉えれば、1つのブランドをネット上で立ち上げ、その人気をさらに大きなビジネスに発展させていくためでは、ブランドの発信者とユーザー以外の、様々なビジネス上の関係者の役割が現実には必要だということもまた、この事例からわかります。
亜細亜大学の西原彰宏准教授、大阪市立大学の圓丸哲麻准教授、小樽商科大学の鈴木和宏准教授による論文「デジタル時代におけるブランド構築-ブランド価値協創(PDF)」では、ブランドを育てる上で、企業と顧客以外の第三者が果たす役割について着目します。
この論文では、ブランド構築に関する従来の議論を振り返り、企業が一方向的にブランド構築を行う「ブランド価値説得」のパラダイムから、企業と消費者がともにブランドを作り上げる「ブランド価値共創」のパラダイムを経て、デジタル時代に対応した「ブランド価値協創」のパラダイムを新たに提案します。このパラダイムでは、ブランドをもつ企業と消費者以外に、ブランド構築に寄与する第三者をBIT(Brand Incubation Third-party)と呼び、その役割に着目します。
BITは従来のブランド構築においても、とても重要な役割を果たしてきたにもかかわらず、その役割が見落とされたり、単なるノイズと見なされたりしてきました。この論文では、BITの例として「カリモク60」のケースを取り上げ、このブランドが人気ブランドに育つ過程で社外デザイナーやカフェ、インテリア雑誌等が果たした役割について議論します。