パネル調査型の中規模シングルソースデータの課題
一方で、パネル調査型のシングルソースデータには課題もある。その一つがサンプルサイズの限界である。特にサイトやアプリのデジタル接触をKPIとしてテレビCMの接触効果を捉えていきたい場合、その出現率が非常に小さい場合が存在する。
簡単な目算をしてみたい。あるモバイルアプリを宣伝したテレビCMの接触者が全人口の50%であったとする。また、そのモバイルアプリの利用率は全人口の5%であったとする。このとき、テレビとモバイルのパネル協力者が1万人いたとすると、テレビCM接触者かつアプリ利用者は、10,000人×0.5×0.05=250人である。「テレビCM接触者かつアプリ利用者は全人口の何%か?」という比率の絶対値を知るには良いが、この人たちをさらに性年代別などにブレイクダウンして分析しようとするとやや物足りない。
GoogleやAmazonといった多くの人が使うアプリやサイトを除き、ほとんどのアプリやサイト(例:ゲームアプリ、企業のWebサイト)は、利用者が一部の人に限定される。出現が少ない分析対象と紐付けたときにも、十分なサンプルサイズが確保できるテレビ視聴データがあれば、活用の幅が一層拡がると想定される。
大規模シングルソースデータの登場
これに対して、直近ではスマートテレビ視聴ログを使った実数型の大規模なテレビ視聴データが登場し、それを各種DMPと紐付け、シングルソース化する動きが進んでいる。たとえば、電通のSTADIA、博報堂DYメディアパートナーズのAtma、インテージのMedia Gauge Dynamic Panel(以下、MGDP)などである。この種のデータを使えば、アプリのコンバージョンデータや自社サイトへの訪問者データといった出現率の低いデータとテレビデータを掛け合わせても十分なサンプルが確保でき、デジタル領域での新しいデータ活用が期待されている。
この記事ではインテージのMGDPを扱っていく。MGDPは全国の60万人(2019年12月現在)の行動結果に基づいて、番組の個人視聴率やテレビCM接触率を算出できる実数型のテレビ視聴ログデータである(※1)。このデータをDMPと接続させれば、ユーザー属性単位でテレビCM接触からデジタル接触、コンバージョンまでを推定的に紐付けて計測できる。サンプルサイズが大きいので、細かいターゲット別(例:若年、学生)やエリア別(例:北海道)に検証を進めていくことも可能である。
※1 MGDP は、(1)60万人規模のサンプルサイズを持ち、(2)全国の都道府県単位でテレビ視聴を計測でき、(3)デジタル識別子を使えば、ユーザー属性単位で CM 接触からデジタル接触・コンバージョンまでを推定的に紐付けて計測できる。
ただし、このデータの利活用において、個人情報の扱いには徹底した配慮を行っている。データ利用への事前許諾はもちろん、個人を特定できないk-匿名化した集計値をサービスとして提供していることやデータ利用を望まない方へのオプトアウト導線を整備していることなど、厳重な注意を払って運用されている。