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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

R/GAが目指す、マーケティングがマーケティングではなくなる世界

解説:エージェンシーは多様なブランドのパーソナリティを見つめることができるのか?

『多くの意思決定において忘れられがちなのは意思決定のための「目的」です』

 これは、「行動意思決定論」という人々の意思決定を、心理学を援用して分析する学問を研究している教授から聞いた言葉です。何を今更と思う人もいるかもしれませんが、実はこの「何のために意思決定して行動するのか」を考えずに意思決定をしている企業が多いことを指摘した言葉です。確かに、就職活動も、就労形態も、異動・昇進スキーム、そしてマーケティングさえも多くの企業がまだまだ画一的で、個々の企業が「何のために」それを行っているのか、その個性を感じる場面が少ないのは事実です。

 前述の指摘は様々な調査データからも理解できます。たとえば「ダイバーシティ」へ注目が集まって久しいにも関わらず、2017年にP&Gが全国の企業(従業員数が100人以上を対象)の管理職1,000名に行った調査では、“ダイバーシティ推進”が経営戦略に組み込まれていると認識していると回答した管理職のうち、「推進に取り組む具体的な目的が明確」だと答えたのは36.7%でした。これは半数以上の管理職が明確でない目的に対して意思決定をしていることを示唆しています。

目的の共創は、ブランドパーソナリティの理解から

 記事内で、『My Crayon Project』について鈴木氏から、『「なぜ資生堂がこのプロジェクトをやるのか」というクレディビリティ(credibility:信頼感) が大切』であるという説明がありました。同時に、プロジェクトを進めるうえでの関係性においても尊重する姿勢の重要性を述べています。ここから、ブランドのパーソナリティを理解するアプローチから、「目的」をともに模索してきたことが理解できます。ブランドの多様なパーソナリティを見つめ、目的を共創し、ブランドと生活者とつなぐクレディビリティ(credibility:信頼感)を築くケイパビリティこそが、次世代エージェンシーと表現されるR/GAの強みであり、同質性の高い日本において躍進が期待されている理由だと感じました。

 記事内で出た鈴木氏のキーワードから、ブランドパーソナリティを理解しクレディビリティを築くためのポイントを考察していきます

(1)ブランド=人

 「ブランドも、人と同じように生きている」という鈴木氏の言葉は印象的でした。人への興味がR/GAの基盤であることは、対談中にも繰り返し述べられていました。経営学者のフィリップ・コトラーはマーケティングの概念を1.0から4.0まで定義しており、その根拠となっているのは「マズローの欲求5段階説」という人の心(心理学)です。下の図のように生活ステージに合わせて人の欲求は、物理的欲求から精神的欲求へと5段階で現れると説明されています。「ブランド=人」というキーワードを考えると、この欲求はブランドにも、そのステージによって当てはめることができるように思います。

 今回取り上げたMy Crayon Projectのケースで考えてみましょう。資生堂は、140年以上スキン研究に取り組んできた、既に世界で誰もが認識するブランドです。全世界の人々の肌を知り尽くしているからこそ、子どもたちに伝えたい価値観があり、多様性の意味があり、その精神的欲求も高かったように思います。このプロジェクトは資生堂というブランドが「自己実現(最終欲求)」をどのように果たしていくかを模索した結果の一つでもあるように感じます。人への理解の手法は、ブランドへの理解に様々な視点で応用することができるのではないでしょうか。

(2)機能に頼ったパーソナライゼーション≠クレディビリティ

 GDPR等の施行により、ユーザーからいかに情報を提供してもらうかということに苦慮している企業は多いはずです。そして、そのための方法の一つとして「パーソナライゼーション」があげられます。しかし、機能頼りの現在のパーソナライゼーションの傾向に対して、鈴木氏は「機能をひけらかしてベネフィットを押しつけても、ユーザーと信頼関係は築けない」とし、重要なのは「どれだけお互いのことを理解し合っているか」であると説明しています。

 AIが人間のデジタルエクスペリエンスにもたらす影響について、英国、米国、オーストラリアを対象に2019年に実施した調査では、「透明性・信頼・人間らしさ」が重要なキーワードとして報告されました。特に生活者の91%は、パーソナライズされたデジタル体験中に信頼を保つことが重要であると回答しています。

 では、その信頼は何から得られるのでしょうか? 機能フォーカスのパーソナライゼーション以前に、提供されるエクスペリエンスにブランドのパーソナリティを感じることが信頼獲得への第一歩のように思います。

 「自己開示」という自分の情報を相手に開示するということを意味した心理学用語があります。ある調査では自己開示の動機に高い関係性があるのは「親和動機」という相手と親しくなりたいという動機だとしています。ブランドのパーソナリティを知らない限り、親和動機は生まれません参考)。

 「このブランドが、なぜこういった取り組みを行うのか?」ブランドのパーソナリティを感じ、親しくなりたいという欲求がうまれ、様々なコミュニケーションを通し信頼を感じた時に、生活者は自ら情報を開示したいと思うのではないでしょうか。

 ブランドは人によって形成されています。世界に同じ人は一人もいないのですから、人によって形成されてきたブランドもそれこそ多様なはずです。激的に変化しつづける社会環境に対して、ビジネスを加速させるためには抽象的な目的に頼った対応ではなく、ブランドのパーソナリティを見つめ、本質的な「目的」を設定する必要があるように思います。多様なブランドが、目的に沿ってそのパーソナリティを丁寧に表現していけば、必然的に生活者の多様性を尊重し寛容することにつながります。デジタルが前提となりつつあるマーケティングですが、根本的な人への興味と理解こそがその質を高めるヒントとなるように強く感じました。

 今回の記事が「ダイバーシティ」という言葉の意味を、様々な角度や視点で考察するきっかけになることを願います。

筆:白石愛美

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/26 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32847

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