ロイヤリティ施策の重点項目が変わってきた
ファンケルは創業40年を迎える無添加化粧品・健康食品事業を営む企業だ。売上年間1,225億円のうち、デジタルを含む通販が38%、直営店舗が36%と大半を占めている。
そんなファンケルで2004年より自社ECサイトのサービス企画、そしてマーケティングに取り組んできたのが長谷川敬晃氏である。同社は1年前に会員サービスを大きく変えたが、この背景にあるのが「一般的な通販CRMの定石が崩れてきた」(長谷川氏)という認識だ。
一般的な通販CRMの定石では、お客様を分類するにあたって「新規」「ライト」「ミドル」「ヘビー」という「購入回数軸」と、「アクティブ」「非アクティブ」という「購入後の経過日数の軸」を用いる。
定石ではこのフレームワークをもとに、新しいお客様に対して購入された「商品の価値」を伝えて好きになってもらい、その後もっと好きになってもらうために「サービスの情報」「企業姿勢・CSR情報」を提供していく。
継続購入の難易度でいうと、購入回数が少ないユーザーほど難しいというのが共通認識だった。そのため、ロイヤリティの高いユーザーよりも「新規」や「ライト」といった、まだ購入経験の浅いユーザーに重点的にリソースを割くのが普通だった。
たとえば、商品を届ける際には商品のブランディングにつながる刷り物を同梱しつつ、その後タイミングをはかって複数の接点で次回購入につながるコミュニケーションをとるというのが鉄板だった。
しかし、情報があふれ、異業種が参入して競合も増えた現在は「購入経験が多いユーザーでも離反しやすくなり、継続して購入いただくことが容易ではなくなった」と長谷川氏。
結果として、ミドルやヘビーユーザーに対しても継続購入促進にこれまで以上に力を入れなくてはならなくなったのだ。
そこで、購入回数が多い顧客も対象としたマーケティングに取り組むべく、会員サービスの改革、マーケティングオートメーション(以下、MA)の導入などを進めているという。「最適なタイミングで、必要な情報を届ける仕組みを作り、ミドルやヘビーユーザーといった新たな重点領域に対しても価値や情報を提供していく」と方針を説明する。
新規顧客開拓より非アクティブ層のアクティブ化の方が有効
ファンケルのCRM戦略紹介に続いて、長谷川氏とメール配信サービス「MailPublisher」や、コンテンツ制作をはじめとする「メールマーケティング支援サービス」を提供するエンバーポイントCMO北村伊弘氏のディスカッションが展開された。テーマは以下の4つだ。
- 非アクティブ層へのコミュニケーションの重要性
- エンゲージメントを高めるにはどうするべきか
- エンゲージメント強化においてコンテンツはどの程度重要か
- エンゲージメント強化においてどれぐらいのデータ(量/種類)を持つべきか
実はこの4つとも、エンバーポイントが2020年2月に実施したマーケティング担当者を対象としたアンケートから浮き上がった課題だ。
1つ目の「非アクティブ層へのコミュニケーションの重要性」は、メールマーケティングの役割として特に重要なこととして最も多く挙がった(38.3%)ものだ。一方で、約74%が「施策を行っているが十分ではない」と回答している。
長谷川氏はファンケルにおける非アクティブ層に対する考え方として、「この層へのアプローチは効率が悪く、やらなくていいという議論もあるかもしれないが、新規のお客様を育てるより、我々のことをわかっているお客様にもう一度商品を買ってもらいアクティブに持っていく方が価値が高い」と述べる。
ゼロから新規顧客を育成するよりも、非アクティブユーザーに過去に購入した商品を同じように買っていただくことで、LTV(ライフタイムバリュー)が高い顧客を呼び戻すことができるという。
そこへのアプローチとしてのメールマーケティングについては、「コスト効率を考えると、メールマーケティングをうまく使えないかと考えるのはうなずける」とアンケートの結果に同意した。
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販促目的ではないメールでできること
2つ目の「エンゲージメントを高めるにはどうするべきか」については、アンケートで「販促目的ではないメールを配信している」(35%が回答)、「販促目的ではないメールの重要性を感じているが実施できていない」(50.5%が回答)と、85%もの回答者が「販促目的ではないメール」を重要と捉えていることが明らかになった。
これについて、エンバーポイントの北村氏が「ひと昔前はメールマーケティングは販促が主目的だったが、オプトアウトの最小化が課題として認識されるようになり、考え方や目的設定が変わってきている」とコメントすると、長谷川氏は「ファンケルも以前から販促目的ではないメール配信に取り組んでいる」と明かした。
長谷川氏はさらに、「『買って買って』感が出ると企業価値が下がったり、うっとうしいと思われてしまう」と述べる。「会社や商品を嫌いになってしまうことは、一番避けなければならない」からだ。
そこで、ファンケルの考え方として長谷川氏は、「販促よりもコミュニケーションを優先させる。その中でお客様が必要としている商品を最適なタイミングで購入いただくための後押しをすることが重要」と説明する。
ファンケルではオプトアウトの最小化を非常に重視している。オプトアウトされてしまうと、継続的なコミュニケーションが不可能になってしまうからだ。そこで、オプトアウトに向かうユーザーの導線設計やメール内容の改善には力を注いでいるという。
また、この方針のもと「エンゲージメントを高めるためのメール」を重視した結果、「我々の独自性や価値観をコンテンツとして作りこんでいく必要があるため、結果として競合との差別化にもつながっています」(長谷川氏)という。
長谷川氏は実際の例として、妊活から産後まで幅広くサポートする製品の購入者に送っている販促目的ではないメールを紹介した。商品開発に込めた思いなど製品情報を紹介したり、よくあるQAを掲載することで購入した製品をもっと活用していただくことを目指し、まったくオファーは出していないという。
コンテンツクオリティは大事だが「伝わらない」のはダメ
コミュニケーションで重要になるのが、コンテンツだ。そこで、3つ目の「エンゲージメント強化においてコンテンツはどの程度重要か」となる。アンケートでは「メールコンテンツの強化(表現力、訴求力)」がメールマーケティングで強化すべきポイントのナンバーワンに挙がった。そのメールコンテンツの表現力と訴求力については、83%が「表現力や内容の質をもっと改善したい」と述べた。
これに対して長谷川氏は、「一定レベルのコンテンツを作る」という部分に賛成しつつも、「コンテンツのクオリティが高くて美しければいいというものではない」と異論を唱えた。
「クオリティが高いほどブランド価値につながるし、お客様にメールを見てもらい続けるためにも一定のレベルを満たすことは重要。だが、商品を訴求するために必要なコンテンツであることが前提なので、『素敵だけど伝えたいことが伝わらないコンテンツ』ではいけない」(長谷川氏)ため、事業側とクリエイティブ側の密なコミュニケーションが重要となる。
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ユーザーごとに刺さるキーワードやタイミングがある
クオリティについては「改善し続けていくことが大切」という長谷川氏、つい最近の実体験として、「勝ちパターン」の創出をある程度やり尽くしたと思っていたバナーにおいて、「ほんの一文だけ違う表現をしたところ、普段の倍以上のクリックがあった」と明かす。
スマートフォンの普及により「流し見」が増える中で、どうやってクリエイティブを作るのか、戦略的な考えを持った上でしっかり作らなければならない、と長谷川氏。「ユーザーごとにしっかり刺さるキーワードやタイミングがある」「自分たちが思っているよりもやり方や工夫の余地がまだある」と自戒も込めて語った。
ファンケルではコンテンツ制作をエンバーポイントに外注しているが、これについては「高いクオリティの成果物を作るためには、プロにお願いした方がいいし、その会社とどれだけしっかり共創できるかが大事」との考えがあるからだという。
データ、シナリオ、メディアと3軸に分けるメリット
4つ目の「エンゲージメント強化においてどれぐらいのデータ(量・種類)を持つべきか」は、メールマーケティングで強化すべきポイントとして、「コンテンツの強化」(63.1%)に次いで、「データの充実化」が多く挙がった(57.8%)ことを受けてのものだ。
北村氏が、「オールインワンのMAなど便利なツールの導入が進みつつあるが、高度な取り組みを目指す企業からは、多様なデータを取り込みたいができないなどといった制約に直面しているという声も聞く」として、たとえばMailPublisherとトレジャーデータのCDPなどのように、分野に特価したツールを組み合わせる方が思い描いた通りの施策が実現できるのではないか、と提案すると、長谷川氏も同意した。
ファンケルでは現在、データ、シナリオ、メディアと3つの軸を立てて、それぞれを磨くことが最良という考え方のもとでデジタルマーケティングに取り組んでいる。
その背景として、「長くデジタルマーケティングをやっているとやりたいことが増えてくるが、ツールによっては制約に阻まれてストレスになる。メールは活用範囲が広く特に重要なので他ツールとの連携が柔軟である必要がある。その点MailPublisherは柔軟性が高い」と振り返る。同様に、データ基盤もMAとは別に自社で構築し、購買データをはじめ様々な種類のデータを継続的に追加して活用を図っているという。
データ、シナリオ、メディアをすべて備えるMAツールもあるが、3軸を分けて取り組むことのメリットとして長谷川氏は「自由度の高さ」を挙げる。
「オールインワンのツールではやりたいことに制約が出てくる場合がある。カート放棄の対策だけしたいのであればMAだけでよいかもしれないが、ファンケルとしては柔軟に施策を行い、お客様と長期にわたってあらゆるコミュニケーションをとってエンゲージメントの強化を図りたいのです。だからこそ、データ集積はデータ基盤、シナリオ作成はMAツール、コミュニケーションはメール配信ツールと分けることが有効だと考えています」と長谷川氏は語り、講演を締めくくった。
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