圧倒的なヒットはたった一人の感動から始まる
三浦:ここまでヒットすると予想してました?
かっぴー:まさか。描き始めた頃はヒットなんて考えてもなかった。漫画で生活できるとも思ってなかったですしね。というのも、サラリーマン時代、趣味で描いていた「フェイスブックポリス」(後にSNSポリスに改名)が結構人気出たんですが……。
三浦:めちゃくちゃおもしろいんですよ。おもしろいんですけど、売れたわけじゃないんですよね。
かっぴー:そうなんですよ。周りからは「すごくバズってますね」と言われていたんですけど、実際に数字を見ている僕は、それほど爆発的にシェアされているわけではないとわかっていました。ビジネス系インフルエンサーの皆さんがシェアしてくれていたので、実態よりも拡散されている印象が出ていたのかなと思います。
シェアが収入に直結するわけでも稼げるわけでもないし、漫画で食べていけるイメージは当時なかったですね。でも、漫画を描いたら読んでくれる人がいるんだなと思うと、そちらに力を傾けてみたくなったんです。
「左ききのエレン」を書き始める前にとりあえず独立しましたけど、またサラリーマンに戻ることも全然あるなと考えてました。「左ききのエレン」も、当初はほとんど自分のために描いてました。何万人の人に読まれたいとか、単行本化したいなんてまったく考えてなかった。
でも自分を主人公に投影しているからか描き進めているうちに、どんどん作品に対する想いが強くなっていきました。
ちょうどNY編を描いている頃ですかね。「こんなにおもしろいのに、なんでこれだけの人にしか読まれていないんだ」と、怒りに似た感情がわき起こってきて。そこから入れ込むようになりました。
三浦:あれはかっぴーさんの物語なんですよね。先日、映画「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー賞を4部門受賞したポン・ジュノ監督が受賞スピーチで「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」と話していて、まさしくその通りだなと。

僕は、マス広告であっても個人をイメージして制作するんです。たとえば、かっぴーさんと取り組んだJINSさんの「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」にしてもそうですが、制作するときに届けたいのは「メガネをかけている人」ではないんです。
自分でも、友達でも、家族でも、誰でもいいからたった一人をターゲットに置いて、その人に感動してもらうための作品を作るんです。そうすると、その人に近い感性を持った別の人にも感動してもらえる。結果的に、ヒットにつながるパターンが多い。
かっぴー:「左ききのエレン」もまさしくそう。僕と近い感性を持っている人が共感して読んでくれている。
ただ、僕と同じ感性を持っていて、読めば感動するけどまだ読んでいない人がたくさんいるのはわかっていた。潜在顧客が無限にいるとは思っていないのですが、これだけの潜在層がいるのにせいぜい10%ぐらいしか見ていないのが許せなかった。
愛情持って泥臭く仕事に取り組めるかどうかが成否を分ける
三浦:かっぴーさんは自分のために作品を描いたと話されてましたが、僕は真逆。アーティストではなく商業クリエイターなので、僕のためにものを作ったことはないですね。
ただ、共通しているのは、自分の仕事に全力を注げているか。できることは全部やったと言い切れるかが重要です。
「ヒットのさせ方を知りたいという人」に言いたいのは、ヒットさせるためのことをすべてやったか、ということ。
かっぴー:やっぱり、ヒットにつながる仕事って泥臭いんですよね。クラウドファンディングの準備もかなり泥臭いことをやりました。自分の周りの人に一人一人お知らせにいったり、コツコツファンを集めたり。
自分の知人やファンの方に応援をお願いするのは、ダサいかもしれないけどズルではないですからね。
そこで気をつけたのは、クラウドファンディングで応援してくれる人や、作品を実際に購入してくれるようなファンとTwitterのフォロワーは無関係だということ。

僕の場合ですが、漫画の売上とTwitterのエンゲージメントは全然相関関係がないんですよね。
最新話の通知をずっと同じテンプレで更新しているんですが、Twitterでの反応は微減している。でも漫画は売れ続けているし、言ってしまえばフォロワー数より発行部数の方が全然多い。SNSの数字はすごく見えやすいのですが、あまり囚われる必要はないのかなと。
なので、クラウドファンディングスタート時は、Twitterのフォロワーとかではなくて、僕の周りにいた「エレンに人生変えられました」レベルの本物のファンを200人ぐらい自力で集めました。しかも、その人たちに、「給料日前で苦しいかもしれないんですけど、初日にお金を入れてください」とお願いしました。
三浦:これだけ知られていて、素晴らしい作品を作った人が、200人に頭を下げていたことに刮目しないといけない。なかなかできないことだと思います。
クラウドファンディングは便利なサービスですけど、結局は泥臭いことをやり切ってはじめて成果が出るんですよね。