自分が仕事を愛せば、愛してくれるファンが生まれる
三浦:クライアントワークをやり切るためには、どれだけ自分ごと化できるかが鍵です。僕のような広告クリエイターの場合、かっぴーさんとご自身の作品の間にあるような絆をクライアントのプロダクトやサービスと持つのは難しいかもしれないけど、どこまで肉薄できるか。
今、一番クリエイターやマーケターがやってはいけないことは、領域を決めちゃうこと。コピーしか書かない、デジタル広告のこの指標しか追わないとかいう気持ちでいる時点で、自分ごと化できていない。
お客様のコンバージョンという目的変数に至るまでには、わけのわからない説明変数が無数にあるんですよ。トラフィック数とか広告のクリック数とか、大事な数値ではありますが、あくまで無数にある変数のうちの一つでしかない。ごく一部だけ追いかけているうちは、本当に人が動く瞬間は捉えられない。

かっぴー:そういえば、クラウドファンディングを手伝ってくれた方が5名いるんですけど、皆さん本当に熱心に取り組んでくれました。募集が終わった瞬間、深夜24時にみんなから電話がかかってきて。声を震わせながら「かっぴーさんやりましたね!」って。その熱量は本当に嬉しかった。自分の仕事としてやってくれたんだなって思うし、彼らの働きがあったからこその結果だったなと。
三浦:やっぱりどのぐらい自分ごととして捉えられるかが、良い仕事を生み出すたった一つの秘訣ですね。
かっぴー:三浦さんのクライアントって、みんな素晴らしい。それは三浦さんが自分ごと化できる、心震えるようなところだけ受けているんだと思います。でも、みんながみんな仕事を選べるわけではないですよね。
三浦:「仕事が選べて良いね」とよく言われるんですが、もちろん最初からそうではなかったですよ。僕は、仕事の報酬は仕事だと思っています。
僕、博報堂1年目の時、超嫌な奴だったんですよ。自分が天才だと思っていたので(笑)もっと良い仕事持ってこいって、本当に言ってたんです。当時付き合ってた彼女に「俺みたいなクリエイターがこんな地味な仕事するのあり得ないよな」って言ってたら、一言「三浦くん、仕事の報酬は仕事だよ」って。何か主張したいなら、目の前の仕事で成果を出せと。
かっぴー:成果を出して、信頼を獲得しろということですね。僕も、これまでどれだけ信頼を積み重ねられるかを基準に仕事を選んできました。良い仕事をすれば信頼が上がるから、次に舞い込む仕事の質が上がる。仕事に選ばれるというか。

三浦:仕事を選ばずに頑張る、すると仕事を選べるようになる。次に、仕事に選ばれるようになる、ということですね。
もちろん、倫理に反するような、世間に広げるべきではない商品は存在します。そういう特例を除いて、どんな案件でも、自分が頑張れるというか、愛せるポイントを見つけるべきだと思います。
僕、博報堂時代に自動車メーカーを担当していたんですが、車の運転したことないんですよ。免許持ってないし。でも、車があるから社会が良くなるとか、家族が幸せになるんだよなとか考えると、愛情持って仕事に取り組めた。どんな仕事でも、どこか好きになれる要素があるはずなんです。
かっぴーさんがエレンを愛しているように、自分は仕事を愛しているか。愛しているといえるほど、仕事について考えられているかを問いかけてみると、やるべきことが見つかる。
かっぴー:普通の仕事って、なかなか自分ごと化が難しいですよね。でもそこで三浦さんみたいに「これは俺の仕事だ」と思えれば、突き抜けられる可能性がある。
三浦:「愛し方を探す」ということですね。成果を出すことが、自分を遠くへ連れてってくれる。成果を出すためには、仕事を愛する必要がある。自分の仕事を愛すれば愛するほど、突き抜けた成果を出せる。
かっぴー:そうすると、愛してくれる人も自然と出てくるわけですよね。僕も、エレンに執着に近いレベルで愛情を注ぎ込んだからこそ深く作品を愛してくれるファンを獲得できたんだろうなと。そういう人たちの愛って、Web上の数値には表れないんですよね。
三浦:あえて数値化するとしたら、何かを買ってくれたとか、お金払ってイベントに参加してくれたりとか、極めてハードルの高いアクションを乗り越えてくれた人の数でしょうね。そういう人たちは本当に愛情を持ってくれているファンで、彼らは味方として広めてくれる。
目先の数字を追わず、本当に愛してくれる人をどれだけ集められるか。そんな人を集めるために、まずは自分がどれだけ愛情を注げるか。ここに尽きますね。