ポストCookie時代、マーケティング戦略の変化は?
安成:昨年から、個人情報保護の観点やCookieの広告利用の段階的な制限などを踏まえ、“ポストCookie”時代に備えてマーケティング戦略を見直す動きが出てきています。これまでMarkeZineでも、サードパーティデータを含む各種データと、ターゲティング技術などアドテクを活用した新規顧客獲得の事例を取り上げてきましたが、今後は新規獲得重視から既存顧客のロイヤル化や休眠顧客の活性化への投資がより進むのではとみています。
実際、今年1月に発行した『マーケティング動向最新調査』において、1,000名を超えるMarkeZine読者に「これから取り組むべきビジネス課題」を聞いたところ、既存顧客の維持・活性化が新規顧客の開拓に次いで2位となりました。
安成:注力点が変わると、投資の方向性が変わり、テクノロジーの活用も変わってきます。この座談会では、長年テクノロジーの観点からマーケティング領域を支援してこられたエンバーポイントの北村さんを交えて、実務家の皆さんとディスカッションしたいと思います。まずパルの堀田さん、御社のビジネスの状況をうかがえますか?
堀田:当社はアパレルを中心に50~60ほどのブランドを有しており、価格帯は様々です。ビジネスの割合としては、まだ実店舗が8割、ECは2割弱というところですが、近年はモール系より自社ECの伸び率が高くなっています。
パル 執行役員 WEB事業推進室 室長 堀田 覚氏
新卒でアパレル企業に、次にメディア企業でECの立ち上げなどに携わり、2014年にパルへ参画。近年ECに注力する同社でWeb事業全体を統括し、直営サイト「PAL CLOSET ONLINE STORE」のCX向上や店舗とオンラインの会員統合、店舗スタッフのデジタル活用促進などを手掛けている。
コミュニケーションの量を担保する策
安成:新規と既存顧客に対するバランスは、どう捉えられているのでしょうか。課題感などは?
堀田:新規と既存については、元々実店舗あってのブランドでありECという前提があるので、Webマーケティングでまったくの新規を獲得することにあまりコストをかけていません。実店舗をきっかけにブランドや商品を知る顧客が多いため、そこで地道にアプリを入れてもらい、ECへ誘導しながら1to1マーケティングにつなげていくことが最終的にいちばんLTVが上がる策だと捉えています。そうしたマーケティング戦略は今に始まったことでもないので、これをブラッシュアップしていく点は変わらないという感じですね。
北村:実店舗とECを併用して買われる顧客は、やはり増えているんでしょうか?
エンバーポイント CMO 北村伊弘氏
1999年に現エンバーポイントの母体となるベンダー企業に入社して以降、一貫してテクノロジーを追求したマーケティング支援に携わる。クラウド型メール配信プラットフォーム「MailPublisher」シリーズの各プロダクトを企画し、現在は同プロダクトのマーケティング責任者として従事している。
堀田:そうですね、併用率はどんどん高まっていますし、併用する方のほうが購買額も高い傾向があるので、最近はオムニチャネルの推進に力を入れています。
安成:以前の取材で、元々Instagramでコーディネートを発信していた店舗スタッフの活動を後押ししていると聞きました。
堀田:はい、スタッフのコーディネートはアパレルでは非常にニーズが高いコンテンツなので、誰のコーディネートを見て購入されたかなどのデータもすべて取得し、インセンティブをつけています。また、ひとつのブランドのアカウントから何度も投稿が届くとうるさく感じられることもありますが、個人アカウントだとそういう印象になりにくいんですよね。コミュニケーションの量も大事なので、こうした形で担保しています。