企画に乗ってくれるメディアを探し、“パートナー”の意識で
押久保:メディアを選定する際、他にどのような点に注目していらっしゃいますか。
山崎:メディア側に良い提案をしてもらうだけでなく、私たち自身がおもしろい企画を作ることを大切にしています。メディアと私たち協賛企業は、来場者にとって良いコンテンツをつくる“パートナー”の関係。私たちが考えた企画に「それいいね」と乗ってもらえるメディアを見つけ、一緒にできるとうまくいくはずです。
押久保:確かに山崎さんはいつも媒体特性を研究し、記事の企画意図をしっかり汲み取ってくださいますよね。取材前のリサーチや準備も万全なので、それが記事のクオリティにも結果にも繋がっている。当社の場合、『MarkeZine』と『ECzine』の2つの媒体をうまく使い分けていらっしゃいますね。
山崎:ええ。『MarkeZine』は媒体の規模が大きくなり、ブランディング寄りのメディアへ少しポジションが変わったと感じています。『ECzine』はリテールのジャンルで効果的に訴求できる一方、成長途中で尖った読者も多い印象がありますね。
押久保:山崎さんは海外にも目を向けていますよね。世界最大級のテクノロジーカンファレンス「Web Summit」に日本企業として初協賛され、その時私も同行して取材をさせていただきました(「自ら行動し、己の目で判断」ファーストペンギン、山崎徳之氏に聞くWeb Summit協賛のワケ」)。初協賛の狙いは?
山崎:他社が考えていないことをやりたいと考えて、出てきたチャレンジでした。メディア向けに5社限定でパートナーチケットを提供したことで大きな話題作りができるという目算もありました。「No pain, No gain」ならぬ「No venture, No gain」という精神なんです。
古市:コムエクスポジアムのフランス本社が主催する「Paris Retail Week 2018」に山崎さんが参加された際は、私もご一緒させていただきました。
私や押久保さんの立場では、協賛企業と一緒にイベントに同行する機会はほとんどなく、協賛企業がイベント事務局にどのような要望を伝えているのかを生々しく聞くことも多くありません。山崎さんが「Paris Retail Week」の事務局に伝えていたことや、「強火力コンロでお湯を沸かすような」熱量でイベント出展にかける思いを知ることができて、とても勉強になりました。
コロナ禍で「あざとい」コミュニケーションは自爆する
押久保:新型コロナウイルスの影響で、各社マーケティングのアプローチを調整せざるを得ない状況に置かれています。山崎さん、古市さんは現在どのようなことを考えていますか。
山崎:業界全体について感じるのは、テレビCMが大きく落ち込むかもしれないということです。外出自粛によって消費者は自宅にはいるものの、広告主側はターゲティングという意味でも予算という意味でも、マスマーケティングからデジタルへのシフトが加速していく可能性が高いのではないかと。
ここからテレビが巻き返すのか、デジタルを含めた違うメディアに大幅にシフトしていくのか。それは当社のビジネスにとっても大きな問題になるので、慎重に注視しています。
古市:顧客が広告に触れる機会は増えていますが、購買意欲がないんですよね。買い物の頻度や外出が制限され、先行きも見通せない状況ですから。各社のマーケティング予算に変化が見えてくるのは、2~3ヵ月後の夏ごろになるのではないかと考えています。
押久保:このような状況では、当然、広告主もメディアも、打ち出すメッセージを見直すことが必要になってきます。具体的にはどのように働きかければ良いのでしょうか。
山崎:「うちの製品がいいよ」と強く宣伝をするのは違うと思いますね。
古市:コロナを絡めすぎても“あざとい”感じがします。
山崎:そう。“あざとい”ってキーワードだと思うんですよ。これこそマーケターが最もやってはいけないことで。社会のことを考えずに目先の利益のために躍起になるのは危険です。
確かに今この瞬間だけで言えば、自社の利益になるかも知れません。でも中長期的に見ればその会社から顧客は離れてしまいます。それはここ5~6年のマーケティングの動向を見てもわかることで。“あざとくない”道を行くのが、実は近道だと思います。