日本の観光産業の立ち位置
日本の観光産業の立ち位置は、そもそもどのようなものだったか。
2020年の年頭の日本では、観光マーケティングへの期待が高まっていた。近年の日本ではインバウンド観光の拡大が続いており、目前に迫ったオリンピック、その先には万国博覧会などが控えていた。
日本経済を支える産業は、時代と共にシフトしてきた。近年は日本の製造業はかつての勢いを失い、その存在感を低下させている。一方で観光が、新たな成長産業として台頭してきていたのである。訪日観光客数は2010年代に入って急増し、2018年には3,000万人を超えた。10年前の約4倍という大きな伸びである(日本政府観光局 2020)。訪日外国人による旅行消費額は4兆円を超え、これを輸出に相当すると見なすと、日本の観光産業は自動車、化学薬品に次ぐ外貨の稼ぎ手となっていた(月刊事業構想編集部 2018)。

日本の観光産業における伸び代とは?
伝統的な日本の観光サービスは、今から20~30年ほどには労働集約型の古い産業と見られていた。しかし時代は移り、観光が新たな成長産業となっていく。これは特殊な出来事ではなく、世界の他の先進各国と共通する現象であった。
とはいえサービス経済への産業転換が進む欧米先進国は、わが国の一歩先を行っていた。コロナ禍以前における日本の外国人旅行者受入数は、フランスなどと比較すれば3分の1程度にとどまっていた。わが国の観光産業の成果は、欧米の観光先進国と比べるとまだ低い水準にあったのである(国土交通省 2019, p.3)。
ポジティブにとらえれば、この遅れは日本の観光産業には、さらなる伸び代が残されているということである。そして観光の活性化は、多くの関連産業への波及効果を生む。レストランや小売施設の売上拡大に貢献し、食品や雑貨をはじめとする各種の国内生活関連産業に対しては、観光における体験から生まれるグローバルな新規顧客開拓の機会を提供していた。宿泊施設などへの不動産投資が進み,交通インフラのなどの整備への後押しともなっていた。加えて観光産業は、人手不足を受けたAIやロボティクスの導入など、関連産業の技術革新をうながしていた。
参考文献
日本政府観光局 (2020)「ビジット・ジャパン事業開始以降の訪日客数の推移(PDF)」
月刊事業構想編集部(2018)「DMOに高まる期待 観光は,自動車に並ぶ輸出産業に」
国土交通省 (2019)『観光白書』