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ポスト・コロナへ向けた、観光マーケティングの備え【論文紹介】

2020/05/12 09:00

 日本マーケティング学会が刊行する『マーケティングジャーナル』の内容を噛み砕き、一線で活躍しているマーケターに向けて今読むべき論文を紹介する本連載。今回のテーマは「観光マーケティング」です。一口に学術研究といっても様々なスタイルやアプローチがあり、時代や環境の変化に揺るがぬ普遍性をとらえた理論もあれば、変化を受けて新たな価値が見いだされる理論もあります。コロナ禍において本特集をいかに読むべきか、ひとつの可能性を提案します。

目次
この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.39, No.4の巻頭言をもとに、加筆・修正したものです。

ポスト・コロナの観光マーケティング

 新型コロナウィルスの感染が広がり、観光産業は甚大な影響を受けている。嵐をしのぎ、耐える日々にあって、忘れてはならないのは、止まぬ嵐はないことである。いずれ平穏な日々は戻ってくる。しかしこの新たにはじまるポスト・コロナの日常が、従前の私たちの生活とまったく同じものとなることはないだろう。

 人との接触を減らす生活のなかで、モバイル・ワークや遠隔学習が進み、ネット通販の利用が広がる。危機のなかでの行動のシフトが、新たな経験を生み、次なる構想を生み出すだろう。一方で失って気づく価値もある。アナログな人との交流や、リアルのモノとの接点の意義の見直しや再生も広がるだろう。

 以下ではわが国の観光マーケティングについて、「不確実性に満ちた市場の海にこぎ出す」「これまでの矛盾と軋轢を再生させない」という2つの課題を考える。これらの課題に挑むための鍵となる経営学上の2つの概念が「エフェクチュエーション」と「リフレクション」である。

「エフェクチュエーション」という課題

 「人はパンのみによって生きるのではない」という言葉がある。今日一日の生活の糧に不足はなくても、人間は未来の見通しがなければ、果てしのない不安に陥る。しかしコロナ禍の渦中にあって、確実な未来を予測できる人もいない。あり得るシナリオを語ることはできても、実現の確率を見通すことは、そもそも困難である。

 ではこの不確実性に満ちた未来に、いかに挑んでいくか。そのための方法論を確立しておくことが、日本の観光マーケティングに関わる人たちが、ポスト・コロナの日々への備えとして検討しておかなければならない第1の問題である。

 この第1の問題のもとで求められるのは、今後の海図なき航海への挑み方、あるいは霧中の前進のためのマーケティングの方法である。この不確実性問題へのビジネス上の対応については、S.サラスバシが提唱する「エフェクチュエーション」の理論が参考になる。今後の観光マーケティングが、非定常状態が続く市場と対峙し、不確実性の海を乗り切っていかなければならないのであれば、定常時とは異なる行動原理のあり方を見定めておく必要がある。

 定常状態の社会にあってアントレプレナー(企業家)は、変わらぬかに見える社会に潜む不確実性に切り込む挑戦者だといえる。エキスパート研究をアントレプレナーに適用することでS.サラスバシは、予測の成り立たない市場での合理的なマーケティング行動はどのようなものとなるのか、そして大企業などでの標準的なマーケティング・プロセスとはどのように異なるかを理論と実証の両面からあぶり出し、エフェクチュエーションとして定式化してきた。

 『マーケティングジャーナル』(2018年37巻4号)では既に、エフェクチュエーションに関する特集を組んでいる。

「リフレクション」という課題

 第2に日本の観光マーケティングが、コロナ禍の収束後に平穏な日常を取り戻していくとはいっても、この先にどのような日々をつくりあげるのか。そもそもの日常が、一皮めくると軋轢と矛盾に満ちていたのであれば、ポスト・コロナの日々を迎えても、ひとつの混乱からもうひとつの混乱に移行するだけの話である。

 日本の観光マーケティングが可能性に満ちた常態へと回帰していくためには、過去を振り返り、リフレクション(省察)を重ねておく必要がある。確かに観光マーケティングの未来は混沌としており、不確実である。しかしだからといって、過去に確実に存在していた問題から目をそらせてよいわけではない。

 今回の『マーケティングジャーナル』(2020年39巻4号)の特集「観光マーケティング」では、このリフレクションを行うためのいくつかの手がかりを提供している。第2の課題について検討を続ける。

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