世の中には、無駄なリサーチが多すぎる
中川:僕も妻や友人など身近な存在から話を聞いたり観察したりして新たな習慣を探したりしますが、習慣を見つける上では、定性的な調査が重要なんでしょうか?
米田:おっしゃる通り、習慣を見つけるには定性調査、中でもエスノグラフィーと言われる観察系のリサーチが向いていると思います。定量と定性の調査の特性を知り、ビジネスの目的に合わせてリサーチをデザインすることが重要だと思います。
世の中には、無駄なリサーチが多すぎる気がしています。たとえば、非購入者に「なぜ買わないのですか?」と理由を定量的に聞いても、購入動機を高めるアイデアにつながるヒントが見つかる可能性はかなり低いのですが、そういうリサーチも少なくないのが現状かと思います。
ビジネス課題に応じて、誰の何について知りたいのかをきちんと設計した上で、定性と定量を使い分けるべきです。

中川:たとえば、ユーザーインタビューをして、新たな習慣が2、30個出てきて、どれをテレビCMで、Webキャンペーンで訴求するかの優先順位付けに定量調査をかませるとかですかね。
米田:そうですね。先ほどのファブリーズの事例でも、私個人は、ヘビーユーザーから「濡れた傘を乾かすときに使う」というアイデアを聞いたときに名案だと思ったのですが、定量調査をした結果反応が薄く、頻度も少ないことから採用には至りませんでした。
このように、バランスを取った調査は広がる習慣を考える上で重要かもしれませんね。
求められる前に出す×報酬を変えて飽きさせない
中川:書籍の中で、たとえばガムのように元々口の寂しさを埋めるというのが報酬だったものが、口臭対策に変わり、さらに虫歯予防に変わるなど、その習慣がもたらす報酬を時間とともに変えていくことが重要だと解説しています。米田さんはそのように報酬の時系列変化を意識したことはありますか?
米田:P&Gの柔軟剤ブランドである「レノア」は、報酬の変化がヒットのきっかけになった商品でしたね。柔軟剤というものは元々洗濯物を柔らかくするために入れていたものだったのに対し、レノアは消臭効果という報酬を追加して発売しました。それをきっかけに、縮小傾向であった柔軟剤市場は2倍以上に拡大しました。
さらに、当時は洗濯の途中で柔軟剤を入れるのが一般的でしたが、家電メーカー協力のもと柔軟剤を洗剤と同時にあらかじめセットできるようにして、洗濯する際に柔軟剤を入れる習慣を生み出しました。
中川:ちなみに、報酬を変化させるタイミングは、売れなくなったときに変えるのか、先んじて変えるのかどちらがいいと思いますか。
米田:後者だと思います。レノアは発売後何年にも渡って順調にシェアを伸ばしていきました。ただ、それは中長期的な目線で先んじて新しい香りやラインアップを出すなど、少しずつ変化を持たせて飽きさせない工夫をしていたからです。
中川:ちなみにその判断をする上で継続的にリサーチを行っているのでしょうか。
米田:何をどう変えていくかを、お客様に求められてから決めていては遅いケースがほとんどです。そのため、手を休めることなくリサーチしていく必要がありました。
レノアの消臭効果もファブリーズの消臭効果も世に出るまでは求められていたわけではありません。それらの効果がユーザーによって意味のあるものである、最先端であることを伝える取り組みも的確に混ぜていくことも重要だと思います。
