売れ続ける仕組みではなく、今売れる仕掛けになっていませんか?
中川:今回はP&G出身で、ゲームや飲食など様々な業種でマーケティングを経験し、現在は独立してマーケティングコンサルティングを行っているインサイト・ピークスの米田さんと、これからの生活者に買い続けてもらうための仕組み作りについて対談したいと思います。
中川:4月25日に刊行した『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』(秀和システム、以下『カイタイ新書』)では、商品の習慣化について言及しています。最近、マーケティングが短期的な利益を狙うものとして語られるケースが多い印象があります。
マーケティングは本来売れ続ける中長期的な仕組みを作ることのはずです。米田さんはこの「マーケティングが短期的目線に焦点が行ってしまうこと」に対して、どのようにお考えですか。
米田:少なくとも経営層は皆、中長期な戦略を考えていると思います。経営を担う人であれば誰でも3~5年先のことを見据えて経営戦略を練っているはず。問題なのは、せっかく練られた中長期戦略が現場に落ちていない、落とそうとしていないことです。
P&Gでは、現場担当者を含めた関係者全員に中長期計画を説明する機会が設けられていました。年次や役職に関わらず、全世界のOGSM(目的、目標、戦略、評価についてまとめるフレームワーク)が落とし込まれます。それが四半期に1回ペースで行われていました。
これがグローバルだけでなく日本や各カテゴリー単位でも行われるので、自社の状況や自分の役割が明確になります。この仕組みのおかげで、P&G出身者は中長期的な目線が養われているのかもしれません。
習慣は使っている人からしか生まれない
中川:ありがとうございます。組織の課題も大きそうですね。
私は『カイタイ新書』の中で、プリンターのカートリッジや髭剃りの替え刃、最近だとサブスクリプションのサービスなど、売れ続ける仕組み=「習慣化」による中長期で売れ続ける仕組みが重要だと書きました。
米田さんはこの「習慣化」に関して、どのような考えをお持ちですか。
米田:P&Gの消臭剤ブランド「ファブリーズ」をリリースする際に、私はCMK (Consumer & Market Knowledge:消費者市場戦略本部)という部署に所属していたのですが、当時同ブランドのグローバルリーダーから、「Habit Creation=ファブリーズを使う習慣を作り出す」ことが課題であると言われていました。
当時はスプレー型の消臭剤がなかったので、使い続けてもらうには習慣化が必要だと感じていたのだと思います。その経験から、私は、生活者がいつ・何を・どんな風に使うといいことがあるのかというルーティンを様々な形で紹介することが重要であると考えるようになりました。中川さんの本も読ませていただきましたが、習慣化はマーケティングにおいて、非常に重要な視点の1つだと思っています。
中川:ファブリーズの担当をしていたのは何年前でしょうか?
米田:ファブリーズが発売されたのが1998年なので20年も前のことになりますね。
中川:20年以上前からすでに習慣化の重要性に気づいていたんですね。ちなみに習慣を作るために意識していたことはありますか。
米田:習慣というのは使っている人から生まれる、ということでしょうか。そのため、すでに習慣化しているヘビーユーザーの観察が非常に重要です。
ファブリーズの発売当初は、簡単に洗濯できないコートやソファ、カーペットなどの布製品に付いたタバコや焼き肉などの嫌な臭いを取るためのものとして宣伝していましたが、それだけではユーザーも使用シーンも限られるため、売り上げが伸び悩んでいました。
そんな状況でもファブリーズをひと月に何本も購入してくださるユーザーもいらしたので、そんなヘビーユーザーのお宅におじゃまして、どのように使っていらっしゃるのか見せていただきました。すると、開発した担当者でも思い付かなかったような使い方を色々教えてくださったんです。たとえば、夜寝る前にカーペットやカーテンにファブリーズをかけておくと、次の日の朝には臭いのない気持ちいい日が始まる、など。
中川さんの本でも「頻度は多いほうがいい」と書いていますが、使用シーンは多彩なほうがいいと思います。そして、すでに使っている人の習慣だと「そんな使い方があるなら私も」と商品を使ってもらえる提案になるのです。