「日本の広告費」トレンドをマーケティング投資の判断材料にしてはならない
目先のマーケティング投資削減を超えて、すべての投資の効果測定指標の見直しが必要なこと、そしてそのために具体的な顧客戦略(Who&What)から、考えていくべきだと解説しました。
言葉で説明すれば多くの方に納得いただけると思うのですが、実践されているケースが非常に少ないと感じます。たとえば電通から発表された「日本の広告費」ひとつとっても、インターネット広告費がテレビ広告費を抜いたことが大きなトピックになり、「テレビへの投資を見直してインターネットにさらに振らなければ」といった意見が多く聞かれました。そして、それを持って「デジタル化」戦略と位置付けている企業やマーケターが少なくないと感じます。
しかし、日本の広告費は単純に広告費の総計を表した結果であって、あくまで合算にすぎません。それぞれの個別事業のマーケティングに役立つ示唆は得られません。
スマホを電話代わりにしか使っていない50代の顧客を多く抱えているビジネスにとって、メディアをインターネットへシフトするのは誤った打ち手ですし、逆に10代でオフラインメディアにほぼ接触しない人でも、Webなのかアプリなのかで「デジタル戦略」の意味はまったく変わってきます。要するに、自社の顧客の実態を正しくつかめていないまま「テレビか、インターネットか」の議論をしても意味がありません。
10代と50代が住む世界はまったく違う
ここで、各世代のメディア接触を見てみましょう。図表1は、各世代のメディア利用時間です。

30代を境に、インターネット利用時間とテレビ(リアルタイム)視聴時間が逆転します。20年ほど前であればインターネット利用の項目がなく、中高年ほど新聞閲読時間が長い、などの多少の特徴はあったでしょうが、ここまで大きな分断は起きていなかったと思います。
また若年層と中高年ではテレビの視聴時間に差はあるものの、10代や20代でもまったく接触していないわけではありません。同じく総務省の調査によると、いまだに10代の6割がテレビを見ています。
このような誰にでも手に入る公開データだけでも、若年層のテレビ離れや世の中のデジタル化といった議論が顧客の実態を正確に捉えていないことがわかります。かつ、テレビは数チャンネルに対してインターネットのメディアは何十万、何百万と分散しているので、広告をテレビからインターネットにメディア投資を移動すると言っても、ターゲット層に到達する速度も、一度にカバーできる人数も大きく異なります。つまり、メディア毎に、投資効果のスピードと規模が大きく異なるのです。
「自社商品の顧客は本当にスマホオンリーで、まったくマスメディアに接触していない」と言われる方もいますが、それはその会社が、スマホのメディアでリーチ出来る層にしかマーケティングしてこなかった結果であって、実は、その層以外にリーチできる潜在顧客が視界に入っていない場合がほとんどです。特にスタートアップやデジタル系のベンチャー企業で、そのような状況が見られます。
さらにもうひとつ違う角度から、ありがちなマーケットの誤解を見てみます。総務省人口推計によると、10〜20代は50〜60代に比べて3分の2程度になっています。したがって、50〜60代で10%のシェアを獲得するのと10〜20代から10%のシェアを獲得するのとでは、顧客数や売上額自体が単純計算で1.5倍になってきます。ターゲット年齢によって、アプローチできる人数が異なるのです。
また、企業側の意識を考えてみると、中高年の顧客を多く抱えている企業は、デジタルとは無縁の顧客と接する機会が多いので、デジタル環境の変化や10〜20代の変化を軽視しがちです。一方でデジタルに軸を置くスタートアップやベンチャーは、若いデジタル層のバイアスが強いので、中高年齢層のマーケティングチャンスが見えていない場合が多いです。マーケティングの一般的な課題として、ターゲット年齢が上がるほど、新しい情報への反応は鈍くなっていくので、投資効率は若年層のほうが高い場合が多いです。しかしながら、そもそもの世代間での人口が大きく違うので、実は中高年層に投資したほうが大きな費用対効果が望める場合もあるのです。