「大きな仕事は増えたけれど……」三浦氏が感じた歯がゆさ
三浦:スタートアップって目の前の売り上げが大事だから、どうしてもマーケティングやPR、ブランディングなど「すぐ効果が出にくいけれど、どうも意味がありそうだ」ということをどんどん後回しにしてしまうんですよね。そこを資金面、戦略・実務面の両方についてサポートしたい、とずっと考えていました。
アイレップとの業務提携も、元をたどればファンドでお声がけしたの話がきっかけでした。GOという会社は「あらゆる社会の変化と挑戦にコミットする」ことをミッションに掲げていて、僕も元をたどればスタートアップのような変革者や挑戦者を応援したくて独立したところもあるんです。
けれど最近のGOはありがたいことに、大きなフィーの仕事をさせていただくことが増えてきて、同じ条件でスタートアップを支援し続けることができず、歯がゆい思いをすることが多かった。スタートアップに投資も含めてコミットする仕組みから整えなければ、本気で後押しすることはできない。そう考えました。

北爪:アイレップも、スタートアップを支援するスキームを整えている最中です。2014年にインドネシアで通販事業を手掛けるブカラパックというスタートアップに、ベンチャーキャピタルを通じて出資したんです。その会社と一緒にSEOやデジタルマーケティングなど販促・事業支援活動に取り組んだところ、インドネシア初のユニコーン企業として、企業評価額約10億ドル(約1,100億円)にまで成長しました。スケールを後押しできるのは嬉しいことですし、私たちの知見を活用していくフィールドとしての可能性も感じました。
三浦:チャレンジしている人を応援できるのは、シンプルに幸せなことですよね。「この社会には挑戦者が必要だ」と思うし、「挑戦者がいるなら、応援する仕組みが必要だ」とも思う。そのスキームとして、投資とハンズオンの両輪は、欠かせないものです。
おもしろいのに売上が伸びない、CMの悲劇はなぜ起こる?
――スタートアップのマーケティングやPRが抱える課題について、お二人はどのように考えていますか。
三浦:スタートアップの経営者自身が、メディアとクリエイティブの良し悪しを見極める視点を持っていないということですね。創業して数年のスタートアップの経営者が、これまで何十年も広告会社やメディアとガチンコでわたりあってきた大手企業の宣伝部と同じ交渉力や審美眼を持つのは、さすがに難しい。そのためたとえ資金力があったとしても、最初からマスメディアに出稿するのはきついかもしれませんね。
北爪:確かに端から見ていて、もどかしいと思うケースはありますね。あまりにも費用対効果に見合わない出稿をしている。問題の根本は、大手企業とスタートアップのビジネスモデルの違いにあると思っています。
広告会社がこれまでつくってきたCMって、基本的にメーカーのためのCMなんです。メーカーにとって宣伝費は固定費ですから、まず数十億円単位のマーケティング費を投入して、一気に認知率と購入意向を取りに行く。そして流通の棚を取る。すると、製品の発売とともに売り上げもロケットスタートするので、マーケティング費との差分がすべて利益になります。
一方、スタートアップのビジネスモデルはほとんどがダイレクトモデルです。広告を打って認知が取れたとしても、流通の棚を一気に押さえるようなことはできません。スタートアップの場合、CMは変動費となり、そのCMが直接どれだけの人を動かし、売り上げを実現できたかで評価されることになります。
ビジネスモデルがまったく違うのに、メーカーと同じようなCMのバイイングやクリエイティブを行っていたら、うまく噛み合わないケースがあって当然だと思います。

三浦:広告会社も広告主もみんな“おもしろいもの”をつくろうと一生懸命だし、事実“おもしろいもの”ができている。けれど、つくったもの自体が機能するかどうかまで議論できているかというと、確かに疑問が残るところです。
北爪:「タレントがおもしろいことをやっているな」というCMでは、スタートアップが望むような継続的な利用意向を取るのは難しいですね。
三浦:ベネフィット型の広告がいいのか、ペインソリューション型の広告がいいのか、という問題もありますしね。スタートアップはどれもサブスク型だからと、似たタイプのCMばかりつくり続ければ、当然効かなくなってしまうので、一概にペインソリューション型の広告がいいわけでもない。そのタイミングと風向きをどう読むかも、マーケターとクリエイターの才能だと思います。